2022年06月30日 カテゴリ:眠り

部屋は適温のはずなのに!漢方医学から見る「寝汗」の原因と対策とは

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部屋は適温のはずなのに!漢方医学から見る「寝汗」の原因と対策とは
寝苦しい夜が続き、就寝中にも冷房をご使用の方が多いはず。冷やしすぎはカラダへの負担になるものの、部屋の温度や湿度を適切に保てていれば、就寝中の冷房使用は快眠につながります。
 
ただし、温度も湿度も適切な数値なのに妙に寝汗をかく場合には、要注意!不調のシグナルかもしれません。
 
そこで今回は、漢方医学の観点から「寝汗」にフォーカス。寝汗の原因から寝汗に潜むカラダの不調、さらにはセルフケアの方法まで、漢方医学の専門家・新井信先生に伺いました。

 

寝汗は胃腸の機能低下のシグナルかも!

「漢方医学では、寝汗のことを『盗汗(トウカン)』と呼びます。汗を盗まれるような、カラダから汗が漏れ出るような感覚です。そもそも人は一晩にコップ1~1.5杯ほどの寝汗をかくといわれ、寝汗はひとつの生理現象。しかしカラダから漏れ出るような寝汗は、生理現象とは別物。体調不良のシグナルであり、『気虚(キキョ)』の状態にあると考えます」(新井先生)
 
気虚の「気」は元気や気力を表し、「虚」とは空っぽの意味。新井先生の指摘する気虚とは、カラダがエネルギー不足を起こしている状態です。
 
気虚の状態になると寝汗をかくほか、疲れやすくなったり、ダルさを感じたりといった症状が現れますが、気虚の主な原因は胃腸機能の低下だといいます。
 
胃腸は摂取した食物を貯蔵し、エネルギーに変換するための器官です。漢方医学でも、胃腸は外界のエネルギーを取り込むための門戸として捉えられているそう。胃腸の機能が低下することで十分なエネルギーを得られず、気虚の状態を招くというメカニズムです。
 
「しかし西洋医学の考え方では、寝汗も疲れやすさもダルさも、なかなか治療の対象にはなりません。血圧値やコレステロール値のように、カラダの不調が数値に表れることで初めて治療の対象になるからです。一方の漢方医学には『未病を治す』という考え方があり、ご自身が『不快』と感じた時点で、すでに治療の対象です」(新井先生)
 
つまりは、パジャマがぐっしょり濡れるほどの寝汗はもちろん、脂汗のよう不快感を抱いたり、起き抜けに倦怠感を伴ったり、不快感を覚えた段階で不調のシグナル!気虚の状態を疑い、改善策をとることが大切です。

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ドラッグストアでも手に入る寝汗の漢方薬とは?



不快な汗に対する改善策のひとつが、漢方薬の服用です。
 
「寝汗をはじめとした気虚の症状には、朝鮮人参と黄耆(オウギ)という生薬を含んだ処方を用いるのが一般的です。その代表として『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』という漢方薬をおすすめします」(新井先生)
 
補中益気湯は、ドラッグストアでも購入しやすい漢方薬のひとつ。薬の名前にある「中」はお腹のことを指し、「お腹を補い、元気を益する」という意味だそう。寝汗の主な原因である胃腸の機能低下に作用し、疲れやすさやダルさの改善も見込めるといいます。
 
漢方薬の服用に不慣れな方も多いと思いますが、新井先生は「あまり慎重になる必要はありません。補中益気湯を含む漢方薬の多くは、食前もしくは食間の服用が推奨されていますが、そのルールが負担になっては本末転倒」と指摘。飲み忘れに気づいた段階で服用しても構わず、効果を実感するには1~2カ月ほどの服用を勧めているそうです。
 
また、カラダの冷えに注意することも、寝汗の改善につながるそう。カラダを冷やすことが胃腸の機能低下を招くからです。
 
「冷えによるカラダの不調は、江戸時代の漢方医である貝原益軒先生も指摘されていること。益軒先生が著した『養生訓』という書物にも、冷たい水は控えるべしといったことが書かれています」(新井先生)
 

暑い季節の意外な冷えには腹巻きで対策を!

冷えが胃腸の機能低下をもたらし、不快な寝汗を引き起こすとなると、冷たい飲み物を飲み、冷房の効いた部屋で過ごすことの多い夏は、特に注意が必要なシーズン。自分でも気づかないうちに、カラダを冷やしているからです。
 
そこでおすすめなのが腹巻き!
 
「夏の暑い時期に全身をあたためては、熱中症のリスクも否めません。しかし腹巻きなら効率的に胃腸の冷えを防止でき、全身の冷え対策にもなります。お腹をあたためることの全身への効果は、被服学の見地からも実証されていることです」(新井先生)
 
腹巻きの使用をおすすめする一方で、新井先生は、熱いお湯に浸かったり、サウナで汗を流したりすることは推奨しないそう。
 
その理由は熱さの調節が難しいから。マッサージを例にしても、あまりに強い力で施術されると、かえって疲労感を覚えることがあります。入浴やサウナの温熱効果にも同様のことがいえますが、その点、腹巻きは、自分の体温を活用するアイテムです。
 
「入浴やサウナの温熱効果を否定はしません。それらが前向きに作用し、寝汗の改善を感じる人もいるかもしれない。効果があるのなら、取り入れればいいのです。大切なのは自分のカラダの変化をしっかり観察し、よく知ること。どんな方法が自分に効果的なのかを知ることは、漢方医学の基礎でもあります」(新井先生)
 
***
 
寝汗に悩む人は、先生がおすすめする漢方薬や腹巻きを試し、自分のカラダの変化に耳を澄ませてみてください。ただし、セルフケアのみで改善しようと躍起になるのは禁物。
 
「今回は『未病を治す』という観点から改善策をご紹介しましたが、寝汗という症状の陰に、甲状腺機能亢進症や結核、悪性リンパ腫といった、西洋医学的な治療を要する病気が隠れていることがあります。そのため、定期的に健康診断を受けるのはもちろん、医療機関を受診することが大切です」(新井先生)

   

医学博士/東海大学医学部専門診療学系漢方医学教授

新井 信 先生

1958年埼玉県秩父市生まれ。東北大学薬学部、新潟大学医学部卒業。総合内科専門医、漢方専門医、漢方指導医。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て2005年より東海大学医学部着任。以来、高士将典鍼灸師と共に季節ごとの健康に関するテーマを漢方と鍼灸の立場からやさしく説明する「漢方教室」を開催。著書に『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)、『わが家の漢方百科』(東海教育研究所)がある。

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