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「寝る子は育つ」は本当!? 睡眠専門医に聞く「眠りと発育・成績」の関係性

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「寝る子は育つ」は本当!? 睡眠専門医に聞く「眠りと発育・成績」の関係性
日本に古くから伝わることわざ、「寝る子は育つ」。読んで字のごとく、よく寝る子はすくすく育つ、という意味ですが、どうやらこれ単なる俗説ではないよう。昨今の研究により、「寝る子は育つ」ということが、医学的にも立証されつつあるのです。

よく寝ることが、子どもの発育にどのような影響をもたらすのか。教えてくれるのは、睡眠の側面から心身をサポートする『青山・表参道 睡眠ストレスクリニック』の院長、中村真樹先生です。
 

発育に重要な「成長ホルモン」が分泌されるのは睡眠中!

「睡眠と子どもの発育において、無視できないのが『成長ホルモン』です。小児期には骨や筋肉を発達させ、思春期には性的な成熟を促し、代謝機能にもかかわることから、成人期以降は細胞の修復や疲労回復といった役目を担います。その成長ホルモンが盛んに分泌されるのは睡眠中なのです」(中村先生)

成長ホルモンが盛んに分泌されるのは睡眠中。つまり睡眠時間が短いことは、成長ホルモンの分泌を妨げることとなり、子どもの睡眠がいかに大切かを物語っています。

「人の睡眠は、身体も脳も休眠状態の『ノンレム睡眠』と、身体は眠っていても脳は起きている『レム睡眠』の繰り返しから構成され、成長ホルモンの分泌量は、睡眠中の最初に訪れるノンレム睡眠中、つまり寝付いてから約1〜2時間後の間に最も多く分泌されます」(中村先生)

成人の代謝機能にもかかわることから、美容の観点からも注目されている成長ホルモン。美容業界を中心に「最も盛んに分泌されるのは午後10時から深夜2時」といった“ゴールデンタイム”が話題になったこともありますが、実はこれ、誤解なんだそう。

「成長ホルモンは寝付いて1〜2時間後の間に分泌量がピークになるのですが、睡眠の研究を行う際、夜9時に就寝することが多いので、夜10時以降に成長ホルモンがたくさん分泌されるように見えます。実際には、何時に就寝しても一番最初のノンレム睡眠中に成長ホルモンの分泌量が高まります。」と中村先生。とは言え、夜更かしや不規則な生活は禁物です。人は睡眠中、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しながら心身の疲れを回復させたり、日中の学びを記憶・整理しており、規則正しく十分な睡眠をとることで安定した質の高い睡眠が得られるのです。
 

学業にも影響を与える!? 睡眠時間と脳の関係

成長ホルモンが骨や筋肉の発達を促すなら、よく寝る子は身長も伸びやすいの?――。そう思われる親御さんも多いかもしれません。しかし、イギリスの研究機関が行った調査によれば、睡眠時間と身長には明らかな相関関係は見られなかったそう。

「ただし、子どもの発育に睡眠が深く影響していることは、否定しようがありません。睡眠中に成長ホルモンが分泌されることだけでなく、寝不足の子どもは前頭葉の働きが低下する、といった研究報告があるからです」(中村先生)

前頭葉は大脳の一番前の部分に位置し、意欲や感情制御、判断や社会性などに関わる機能を担います。寝不足によって前頭葉の働きが低下することが、成人を対象とした研究から明らかにされ、寝不足が原因でやる気が出なくなったり、キレやすくなったり、注意力・判断力が落ちることが確認されていますが、子どもでも同様のことが起きるとされています。

「寝不足の子どもは集中力が続かない、イライラしやすい、落ち着きがない、周囲に対して攻撃的といった傾向が見られます。これらは発達障害の一種である『注意欠陥・多動性障害(ADHD)』の症状と似ているため、寝不足の症状を発達障害と誤解されることがあります。」(中村先生)

さらに寝不足は、子どもの学力にも影響を及ぼします。子どもの睡眠時間と学業成績の関係については各国が調査を進め、国内外において「睡眠時間が長い子どもや就寝時間の早い子どもほど成績が良い」といった結果が出ているそうです。
 

勉強のために睡眠時間を削ることのジレンマ!

医学的研究からも、社会的調査からも裏付けられつつある「寝る子は育つ」の信憑性。その一方で問題視されているのが、子どもの睡眠習慣です。社会全体が夜型生活にシフトするにつれ、子どもの就寝時間も遅くなる一途。結果的に睡眠時間が削られているのです。

「特に日本は深刻です。日本人の平均睡眠時間は世界的にも短く、それは子どもも同様です。また、欧米やアジアの一部の国では、生活が夜型にシフトした分、学校の始業時間を遅らせる試みも行われていますが、日本にはそうした動きは見られません」(中村先生)

さらには学校が終わった後、塾に通う子どもが増加。塾での勉強に学校の宿題もこなし、余暇の時間も過ごそうとすれば、自ずと就寝時間は遅くなり、寝不足の結果、前頭葉の機能が落ち、しっかり勉強しているのに成績が上がらない、といった事態も起きているといいます。

「日本の学生を対象とした調査によれば、高校生の平日の平均睡眠時間は約7時間。しかし、医学的に推奨されている高校生を含む14~17歳に必要とされる推奨睡眠時間は8~10時間です。7時間では、十分とは言えないのです」(中村先生)

【米国国立睡眠財団による年代別推奨睡眠時間】
未就学児(3~5歳):10~13時間
小学生(6~13歳):9~11時間
青年(14~17歳):8~10時間
若年成人(18~25歳):7~9時間
成人(26~64歳):7~9時間
高齢者(65歳以上):7~8時間
 

専門医も実践!夕食と入浴の入れ替えが睡眠に好影響

よく寝ることが子どもの発育を左右するのと同時に、睡眠時間の短さが問題視されている現実も、ご理解いただけたはずです。しかし、大人ですら寝不足が常態化している昨今。子どもに適切な睡眠を取らせるためには、大人はどうすればいいのでしょうか?

「お子さんがひとりで入浴できる年齢に達していれば、入浴→夕食という順序にしてみましょう。入浴は一時的に心身を興奮させるため、お風呂上がりのしばらくの間は眠気が軽くなります。夕食前に入浴を済ませておけば、夕食が終わるころには入浴直後の興奮も冷め、眠りやすい状態になります。実はこの方法、我が家でも実践しています。食後に自然と眠たくなってくるので、自ら寝室に行くようになりました」(中村先生)

また、子どもが眠りやすい寝室環境を整え、起床と就寝のリズムが乱れないよう教育することも大事だそう。週末に、息抜きに夜ふかしを許し、平日の寝不足を解消するために昼ごろまで寝てしまいがちですが、週末の遅寝遅起きで睡眠リズムが乱れてしまうと、心身にも影響を及ぼします。

「睡眠リズムが乱れると心身のリズムまで乱れ、熟睡感を得られなかったり、集中力が低下したりするだけでなく、頭痛や倦怠感、抑うつの症状が現れやすくなることも。また、平日の寝不足を補おうと休日に長く寝ても、平日に蓄積された睡眠不足(睡眠負債)は、そう簡単には解消されません」(中村先生)

睡眠リズムを整えるにはある程度の期間が必要となるため、睡眠リズムが乱れてしまった場合、夏休みや冬休みといった長期休暇がリズムを正すチャンスだそう。さらに中村先生は平日の睡眠時間を確保しながら規則正しい生活をさせるために、「塾やお稽古事は休日の日中に通わせるのもひとつの方法」とおっしゃっていました。

 

青山・表参道 睡眠ストレスクリニック院長

中村真樹先生

日本睡眠学会専門医。東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科修了後、東北大学病院精神科で助教、外来医長を務める。その後、睡眠総合ケアクリニック代々木院長を経て、2017年「青山・表参道 睡眠ストレスクリニック」を開院。臨床と研究、両面の実績があり、睡眠に悩む多くの患者さんの治療にあたっている。ビジネスパーソン向けの書籍『仕事が冴える眠活法』(三笠書房)も話題に。
https://omotesando-sleep.com/

 日本には「親の背を見て子は育つ」ということわざもあります。大人が子どもの睡眠の重要性を理解するのと合わせ、「寝る子は育つ」を実践するには、まずは大人が自分自身の睡眠を整え、子どもが真似しやすい環境を整えることも重要なのかもしれません。

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