カテゴリ:眠り
寝ている時にビクッとなる落下感の原因とは?睡眠の専門医が対策まで解説
落下するような、転ぶような感覚を覚え、ビクッとして目が覚める――。何が起きたのかわからず、一瞬パニックになってしまいますよね。この現象は、一体なぜ起こるのでしょうか?
教えてくれるのは、睡眠の側面から心身の健康をサポートする「青山・表参道 睡眠ストレスクリニック」の院長、中村真樹先生。発生メカニズムはもちろん、寝ているときの“ビクッ”を回避するための予防策まで、眠りの専門医が紐解きます!
では、なぜこのような現象が起こるのでしょう? そのメカニズムについて中村先生は「完全には解明されていませんが、深く関係しているのが『脳幹網様体』です」と指摘。脳幹網様体とは、筋肉の緊張維持や意識を保持する役割を担い、覚醒状態、つまりは起きている状態の維持にも関わる脳の器官です。
「入眠時ミオクローヌスの原因を簡単に説明すると、いわば脳幹網様体の誤作動。睡眠時は本来、筋肉は緩んだ状態になります。しかし覚醒状態から睡眠状態への移行時に、その切り替えが一時的に不安定になり、ウトウトと半分眠っているような状態になります。そのときに脳幹網様体から筋肉を緊張させるための信号が手足の筋肉に送られることから手足の筋肉が動き、ビクッとなるのです。この筋肉の動きが脳に伝わると、ビクッとしたこの動きを、落下、階段から落ちたというイメージとして、脳が解釈してしまうと考えられています」(中村先生)
ちなみに高所から落下する夢や階段を踏み外す夢を見たときにも、夢の映像に呼応するようにビクッとなり、起きてしまうことがありますよね。でも、これは入眠時ミオクローヌスとは別物のよう。入眠時ミオクローヌスは覚醒状態から睡眠状態へと移行する寝入り際に起こりますが、夢を見るのはREM睡眠という睡眠状態のときです。
とても珍しいケースではあるものの、中村先生が院長を務めるクリニックにも「うとうとするたびにビクッとして目覚めてしまい、なかなか寝付けず満足な睡眠を取れない」という患者さんがいたそう。
「そうした場合、睡眠薬によってスムーズな眠りを誘発するか、筋肉をリラックスさせる薬により、身体のビクつきを抑えるような処方をします」(中村先生)
また、入眠時ミオクローヌスと間違いやすい病気として挙げられるのが「周期性四肢運動障害」です。周期性四肢運動障害は、睡眠中に5〜90秒間隔で繰り返して手足がピクピク動いたり、素早く跳ねたりするような動きが特徴だそう。
「入眠時ミオクローヌスとの大きな違いは、症状が出るタイミングです。入眠時ミオクローヌスが寝入り際に起こるのに対し、周期性四肢運動障害が起きるのは睡眠中。そのため、患者さん本人は無自覚のことが多く、『しっかり寝ているはずなのに疲れが取れない』という熟睡感のなさから、病気に気づくケースが少なくありません」(中村先生)
このように周期性四肢運動障害は、睡眠時に起きる無自覚な動きによって眠りが浅くなり、睡眠障害をもたらすことがあります。さらに症状の陰に鉄欠乏症や貧血が隠れていることもあるため、注意が必要です。
そして、特に乳幼児の場合に間違いやすいのが「てんかん」や「痙攣」。どちらも身体がビクつきますが、中村先生は「入眠時ミオクローヌスは、基本的には寝入り際だけに起きる単発性のビクつき。ビクッと一度だけの動きにとどまります。しかし、てんかんや痙攣は、ビクビクとした身体の動きが寝入り際以外でも生じ、また数十秒続くのが特徴です。この動きが数十秒続くようなら小児科を受診しましょう」と指摘します。
誰にでも当たり前に起こる、生理現象の入眠時ミオクローヌス。ただし、頻繁に起こるようでは不眠の原因となり、そうでなくとも寝入り際にビクッとして目覚めるのは決して気持ちの良いものではありません。
そこで中村先生が予防策として挙げるのが「カフェイン、ニコチン、アルコールの摂取を控えること。また、夕方以降の激しい運動は避けること」です。
カフェイン、ニコチン、アルコールに共通するのが覚醒作用。カフェインの摂取によって眠りづらくなることは広く知られていますが、実はニコチンにも同様の作用があるそう。また、アルコールを摂取すると眠りやすくはなるものの、それは不自然で不安定な眠り。利尿作用によって夜中にトイレに行きたくなることから、むしろ、眠りを浅くしてしまうのです。
「覚醒作用のある成分を夕方以降に多く摂取しては、寝入り際の覚醒状態から睡眠状態への移行がより不安定になり、入眠時ミオクローヌスを起こしやすくなります。夕方以降の激しい運動についても、心身を興奮状態にすることから寝入りが悪くなり、さらに運動の反動として筋肉がビクつきやすくなるという側面からも、やはりおすすめしません」(中村先生)
こうした注意すべきポイントと合わせ、中村先生が何より重要だと指摘するのが「寝る時間と起きる時間を定め、そのリズムを崩さないようにすること」。そして、睡眠のリズムを崩さないために大切なのが、特に夜更かしを控えることだそうです。
「みなさん、眠くないのに眠ることはできなくても、眠気を我慢することはできますよね。これは人に備わった適応能力。同時に一日が24時間なのに対し、人の体内時計の周期は約25時間です。そのため、早寝に慣れることは難しくても遅寝には慣れやすく、この慣れやすさが睡眠のリズムを崩してしまうのです」(中村先生)
それでも日ごろの忙しさにより、なかなか規則正しい生活を送れないのが、現代人の難しいところ。特に最近は「コロナ不眠」というお悩みも増えているそうです。
「新型コロナウイルスへの不安や生活習慣の変化にストレスを感じ、不眠を来す人が増えています。ストレスは眠りづらさを引き起こすことから、入眠時ミオクローヌスの一因にもなりますが、『眠りが浅いな、寝ているはずなのに疲れが取れないな』という辛さを感じたら、あまり我慢せず睡眠専門の医療機関を受診することも大切です」(中村先生)
寝ているときの“ビクッ”となる現象についてお届けしましたが、いかがでしたか?
入眠時ミオクローヌスを経験したことがない人にも、悩まされていない人にとっても、寝る時間と起きる時間を一定にし、睡眠のリズムを崩さないことは、健やかな毎日に直結します。これを機に、ぜひ、ご自身の眠りを見直してみてくださいね!
教えてくれるのは、睡眠の側面から心身の健康をサポートする「青山・表参道 睡眠ストレスクリニック」の院長、中村真樹先生。発生メカニズムはもちろん、寝ているときの“ビクッ”を回避するための予防策まで、眠りの専門医が紐解きます!
睡眠時の“ビクッ”を引き起こすのは脳の誤作動!?
寝ているときにビクッとなる現象には、「入眠時ミオクローヌス」という医学的な名称があります。「ミオクローヌス」とは短時間の筋肉の収縮運動のこと。うとうとしている寝入り際に、自分の意思とは関係なく手足の筋肉が動くことから、ビクッとした感覚を覚えるのです。では、なぜこのような現象が起こるのでしょう? そのメカニズムについて中村先生は「完全には解明されていませんが、深く関係しているのが『脳幹網様体』です」と指摘。脳幹網様体とは、筋肉の緊張維持や意識を保持する役割を担い、覚醒状態、つまりは起きている状態の維持にも関わる脳の器官です。
「入眠時ミオクローヌスの原因を簡単に説明すると、いわば脳幹網様体の誤作動。睡眠時は本来、筋肉は緩んだ状態になります。しかし覚醒状態から睡眠状態への移行時に、その切り替えが一時的に不安定になり、ウトウトと半分眠っているような状態になります。そのときに脳幹網様体から筋肉を緊張させるための信号が手足の筋肉に送られることから手足の筋肉が動き、ビクッとなるのです。この筋肉の動きが脳に伝わると、ビクッとしたこの動きを、落下、階段から落ちたというイメージとして、脳が解釈してしまうと考えられています」(中村先生)
ちなみに高所から落下する夢や階段を踏み外す夢を見たときにも、夢の映像に呼応するようにビクッとなり、起きてしまうことがありますよね。でも、これは入眠時ミオクローヌスとは別物のよう。入眠時ミオクローヌスは覚醒状態から睡眠状態へと移行する寝入り際に起こりますが、夢を見るのはREM睡眠という睡眠状態のときです。
筋肉が収縮する「てんかん」や「痙攣」との見分け方
ビクッとした感覚によりハッと目覚めてしまい、心臓がドキドキ。動悸や呼吸の乱れを引き起こすこともある入眠時ミオクローヌスですが、病気ではなく、あくまでも生理現象だそう。特に心配する必要はありませんが、中村先生は「あまりに頻繁に起きるようでは、不眠の原因になります」と指摘します。とても珍しいケースではあるものの、中村先生が院長を務めるクリニックにも「うとうとするたびにビクッとして目覚めてしまい、なかなか寝付けず満足な睡眠を取れない」という患者さんがいたそう。
「そうした場合、睡眠薬によってスムーズな眠りを誘発するか、筋肉をリラックスさせる薬により、身体のビクつきを抑えるような処方をします」(中村先生)
また、入眠時ミオクローヌスと間違いやすい病気として挙げられるのが「周期性四肢運動障害」です。周期性四肢運動障害は、睡眠中に5〜90秒間隔で繰り返して手足がピクピク動いたり、素早く跳ねたりするような動きが特徴だそう。
「入眠時ミオクローヌスとの大きな違いは、症状が出るタイミングです。入眠時ミオクローヌスが寝入り際に起こるのに対し、周期性四肢運動障害が起きるのは睡眠中。そのため、患者さん本人は無自覚のことが多く、『しっかり寝ているはずなのに疲れが取れない』という熟睡感のなさから、病気に気づくケースが少なくありません」(中村先生)
このように周期性四肢運動障害は、睡眠時に起きる無自覚な動きによって眠りが浅くなり、睡眠障害をもたらすことがあります。さらに症状の陰に鉄欠乏症や貧血が隠れていることもあるため、注意が必要です。
そして、特に乳幼児の場合に間違いやすいのが「てんかん」や「痙攣」。どちらも身体がビクつきますが、中村先生は「入眠時ミオクローヌスは、基本的には寝入り際だけに起きる単発性のビクつき。ビクッと一度だけの動きにとどまります。しかし、てんかんや痙攣は、ビクビクとした身体の動きが寝入り際以外でも生じ、また数十秒続くのが特徴です。この動きが数十秒続くようなら小児科を受診しましょう」と指摘します。
予防のための最重要ポイントは就寝時間の一定化!
誰にでも当たり前に起こる、生理現象の入眠時ミオクローヌス。ただし、頻繁に起こるようでは不眠の原因となり、そうでなくとも寝入り際にビクッとして目覚めるのは決して気持ちの良いものではありません。
そこで中村先生が予防策として挙げるのが「カフェイン、ニコチン、アルコールの摂取を控えること。また、夕方以降の激しい運動は避けること」です。
カフェイン、ニコチン、アルコールに共通するのが覚醒作用。カフェインの摂取によって眠りづらくなることは広く知られていますが、実はニコチンにも同様の作用があるそう。また、アルコールを摂取すると眠りやすくはなるものの、それは不自然で不安定な眠り。利尿作用によって夜中にトイレに行きたくなることから、むしろ、眠りを浅くしてしまうのです。
「覚醒作用のある成分を夕方以降に多く摂取しては、寝入り際の覚醒状態から睡眠状態への移行がより不安定になり、入眠時ミオクローヌスを起こしやすくなります。夕方以降の激しい運動についても、心身を興奮状態にすることから寝入りが悪くなり、さらに運動の反動として筋肉がビクつきやすくなるという側面からも、やはりおすすめしません」(中村先生)
こうした注意すべきポイントと合わせ、中村先生が何より重要だと指摘するのが「寝る時間と起きる時間を定め、そのリズムを崩さないようにすること」。そして、睡眠のリズムを崩さないために大切なのが、特に夜更かしを控えることだそうです。
「みなさん、眠くないのに眠ることはできなくても、眠気を我慢することはできますよね。これは人に備わった適応能力。同時に一日が24時間なのに対し、人の体内時計の周期は約25時間です。そのため、早寝に慣れることは難しくても遅寝には慣れやすく、この慣れやすさが睡眠のリズムを崩してしまうのです」(中村先生)
それでも日ごろの忙しさにより、なかなか規則正しい生活を送れないのが、現代人の難しいところ。特に最近は「コロナ不眠」というお悩みも増えているそうです。
「新型コロナウイルスへの不安や生活習慣の変化にストレスを感じ、不眠を来す人が増えています。ストレスは眠りづらさを引き起こすことから、入眠時ミオクローヌスの一因にもなりますが、『眠りが浅いな、寝ているはずなのに疲れが取れないな』という辛さを感じたら、あまり我慢せず睡眠専門の医療機関を受診することも大切です」(中村先生)
寝ているときの“ビクッ”となる現象についてお届けしましたが、いかがでしたか?
入眠時ミオクローヌスを経験したことがない人にも、悩まされていない人にとっても、寝る時間と起きる時間を一定にし、睡眠のリズムを崩さないことは、健やかな毎日に直結します。これを機に、ぜひ、ご自身の眠りを見直してみてくださいね!
青山・表参道 睡眠ストレスクリニック院長
中村真樹先生
日本睡眠学会専門医。東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科修了後、東北大学病院精神科で助教、外来医長を務める。その後、睡眠総合ケアクリニック代々木院長を経て、2017年「青山・表参道 睡眠ストレスクリニック」を開院。臨床と研究、両面の実績があり、睡眠に悩む多くの患者さんの治療にあたっている。ビジネスパーソン向けの書籍『仕事が冴える眠活法』(三笠書房)も話題に。
https://omotesando-sleep.com/
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