2022年08月30日 カテゴリ:眠り

願った夢が見られる?脳の働きからひも解く「明晰夢」の秘密

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願った夢が見られる?脳の働きからひも解く「明晰夢」の秘密
「明晰夢」という言葉をご存じでしょうか?
「明晰夢」とは、「これは夢だ!」と自覚して見る夢、そして自分の思うままにコントロールできる夢のことです。

まさに夢のような話だけに、ちょっとオカルトチックに感じる人もいるはず。そこで今回は、明晰夢を深掘りします!教えてくれるのは、睡眠の面から心身の健康をサポートする『青山・表参道 睡眠ストレスクリニック』院長の中村真樹先生です。
 

荒唐無稽じゃない!PTSDの治療にも用いられる「明晰夢」

寝ている間に見る夢を「夢」だと自覚しているばかりか、その夢をコントロールできる人までいるという「明晰夢」。どこか現実離れした話のようにも思えますが、実はそうでもないようです。

「『夢』という現象自体が現代でも解明できていないことが多く、実は『明晰夢』が本当に存在するかどうかさえ、明確な答えはありません。その一方、荒唐無稽な話とも限らず、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の研究分野では、明晰夢を治療として用いる試みがされています」

PTSDとは大きなショックを受けた経験をした後、その経験の記憶が自分の意思とは無関係に思い出されたり、悪夢として現れたりすることが続き、不安や緊張の高まり、さらに辛さのあまりに現実感を失ったりする精神疾患のこと。

「私たちはなぜ夢を見るのか。実は夢を見るメカニズムは完全には解明されていませんが、有力な説として挙げられるのが『記憶の整理』です。PTSDの患者さんはあまりにも辛い経験をしたため、その記憶を繰り返し夢に見てしまいます。そこで夢を操れる明晰夢を利用し、悪夢として再現される記憶を楽しい記憶に書き換えてしまおう、という考え方です」
 

私たちはどうして夢を見るの?有力な説は「記憶の整理」

明晰夢に限らず、夢を見るメカニズムが十分に解明されていない以上、明晰夢を利用したPTSDの治療に効果があるのか、それもまた未知数です。しかし、中村先生が指摘する「私たちは記憶を整理するために夢を見る」という説には、一定のエビデンスがあります。

「夢を見るのは主にレム睡眠のとき。レム睡眠とは、身体は休息状態にあるにもかかわらず、閉じたまぶたの下の眼球はきょろきょろと動く状態です。このときの脳の動きを見てみると、高度な理解や行動に関わる前頭葉の働きが低下している一方、感情と記憶に関わる扁桃体の働きは活発化しているのです」

夢を見るレム睡眠時には、恐怖感や不安の記憶に関わる扁桃体が活発化しています。また、レム睡眠時には、私たちの“見る”機能を司る後頭葉の働きも活発化しているそう。これはまさに、夢を「見ている」ことの裏付けのようにも思えます。

中村先生によれば、私たち人間だけでなく動物も夢を見るそう。特に自然界に生きる動物にとっては、恐怖体験を繰り返さないことは自らの生死に直結します。「あの草陰でライオンに遭遇した」という恐怖体験を夢によって脳に定着させ、その恐怖体験をした場所・状況を記憶することで危険を回避する、一種の防衛機能というわけです。

また、「人はPTSDかどうかに関わらず、楽しい夢よりも不安感や恐怖感を感じる夢、悪夢を見やすいといった指摘もあります。レム睡眠時に活発に働く扁桃体は、感情の中でも特に不安や恐怖に深く関与するとされています。つまり、不安や恐怖感を感じた状況を記憶として定着させることで、不安・恐怖をもたらす状況を避けて安全に生き抜く力を強化している、と考察されています」

さらに、「人はストレス過多のとき、不眠になりやすくなります。今現在、ストレスによる不眠の原因は恒常的な緊張感により、身体が寝る準備を整えられないから、と考えられていますが、最近では新しい説もあるんです。ストレスの元凶となる負の体験を脳に定着させないため、脳が寝ないという選択をしているのではないか、という仮説を立てる精神科の先生もいます」
 

医科学的な脳波から見て取れる、明晰夢の「夢うつつ」

睡眠中の脳の働きを背景に「夢を見る理由」について説明いただきましたが、ここで話を明晰夢に戻しましょう。謎の多い明晰夢、やはり脳の動きを見てみると通常のレム睡眠とは異なる波形を見せるといいます。

「見ている夢を明晰夢だと判断するのは、あくまでも主観です。その主観を信じることを前提に脳波を取ったところ、レム睡眠時に特徴的な波形と目覚めている状態に近い波形が混在していた、という研究結果があります。さらに別の研究では、明晰夢を見ている間は、通常は夢を見ているレム睡眠のときには抑制状態にある前頭葉の働きが活発化している、という報告もされているのです」

夢を見るレム睡眠時には、高度な理解や行動に関わる前頭葉の働きは低下しているはずです。それにもかかわらず、明晰夢を見ている間は前頭葉の働きが活発化しているので、明晰夢は夢うつつということに?それに対し。中村先生は「夢と現実が混在したような状態ではないでしょうか?」と指摘します。

この記事をお読みになり、「私も明晰夢を見てみたい!」と思われる方は少なくないでしょう。では、明晰夢を意図的に見る方法をご紹介しましょう!
 

覚醒とレム睡眠の混在から明晰夢を見る「WBTBテクニック」

その方法は「WBTBテクニック」と呼ばれ、「Wake Back To Bed」の略称。日本語にすると「ベッドに戻って覚醒する」という意味になります。

WBTBテクニックのやり方
1.目覚ましのアラームを通常より2時間ほど早い時間にセット。
2.アラームによって起床したら30〜60分間、脳に過剰な刺激を与えることを避けながら、起きた状態を保つ。
3.その後ベッドに戻り、もう一度眠りに就く。

この「WBTBテクニック」は医学的に認められているとは言い切れず、実際に明晰夢が見られるとも限りません。しかし、そのことを前提に中村先生は「ある程度、納得のいく方法ではあります」と話し、続けて「この方法は恐らく、意図的に明晰夢の状態に近い脳波を作り出していると考えられます」と指摘します。

「私たちはノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返し、明け方になると眠り全体が浅くなっている上にレム睡眠の持続時間が長くなり、目が覚めやすい状態になります。しかし、このWBTBテクニックでは生理的な目覚めとは無関係にレム睡眠中と思われる時間に自身を無理やりたたき起こし、『まだ寝たいのに…』という状況を意図的に作り出します。その状態で再入眠すると覚醒状態の脳の働きとレム睡眠に戻ろうとする脳の働きが混在し、明晰夢を見やすくなるという理論でしょう」

すでにご紹介した通り、明晰夢を見ている間はレム睡眠時に特徴的な脳波と目覚めている状態に近い脳波が混在している、という研究報告があります。その報告に基づけば、通常よりも早い時間に無理やりに起き、寝ぼけ状態で再入眠する「WBTBテクニック」は、明晰夢の状態に近い脳波を意図的に作り出している、という見方ができるのです。

しかしながら、「積極的に明晰夢を見ようとすることは、あまり推奨できません」と中村先生。然るべき睡眠と起床のリズムを乱すような「WBTBテクニック」は、睡眠の質を低下させる危険性があるからです。

また、夢と現実が混在するような明晰夢を意図的に繰り返していると、次第に夢と現実の区別がつかなくなってしまう恐れも。さらに、幻覚や妄想など精神疾患に近い状態を引き起こす危険があるという指摘もあります。
 
***

夢を操れるだなんて、まさに夢のよう!夢を見る理由として挙げられる「記憶の整理」という説に基づけば、念じる気持ちが強いほどに希望の夢が見られる可能性も。だとしたら「明晰夢」を目指さなくとも、おやすみ前に思い切り楽しいことを想像し、眠りに就いてみるのも一考ですよ!
 

青山・表参道 睡眠ストレスクリニック院長

中村真樹先生

日本睡眠学会専門医。東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科修了後、東北大学病院精神科で助教、外来医長を務める。その後、睡眠総合ケアクリニック代々木院長を経て、2017年「青山・表参道 睡眠ストレスクリニック」を開院。臨床と研究、両面の実績があり、睡眠に悩む多くの患者さんの治療にあたっている。ビジネスパーソン向けの書籍『仕事が冴える眠活法』(三笠書房)も話題に。
https://omotesando-sleep.com/

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