カテゴリ:眠り
一日中寝てしまうのはなぜ?うつ病ではない反復性過眠症について解説
たっぷり寝たはずなのに、眠くて眠くてたまらない。異様な眠気に襲われると「もしかして過眠症?」と、不安になることもありますよね。そこで今回は、過眠症のひとつである「反復性過眠症(クライネ=レビン症候群)」にフォーカス。耳慣れない病名ですが、一体どんな病気なのでしょう? 主な症状から過眠症の一種である「ナルコレプシー」との違い、さらには日頃から心掛けたい予防策まで、睡眠分野の研究に従事し、特に過眠症に精通する医学博士・本多真先生に伺いました。
「しかし反復性過眠症に関しては、ある意味、わかりやすい。この病気を発症すると、日常生活が困難なほどの強い眠気に襲われ、否応なしに眠ってしまう状態が数日間から数週間も持続します。でも間欠期には、何事もなかったかのように正常に戻ります。つまり重度の過眠期が繰り返して生じるという経過から診断できるのです。」(本多先生)。
抗いがたい眠気によって眠りに就くと、継続して1日に16~20時間も眠ってしまうそう。さらには過度な睡眠状態が2.5日から80日(中央値は10日間)ほど持続し、まれに数カ月間に及ぶことまであります。
過眠症というと日中に強い眠気に襲われる「ナルコレプシー」を思い浮かべる人もいるかと思いますが、ナルコレプシーの人の日中居眠り持続時間は、寝不足や無呼吸症候群など他の原因がなければ、一度に10~20分程度。短時間の居眠りをするとすっきり目覚め、1-2時間後に再び強い眠気に襲われるのが特徴です。反復性過眠症とナルコレプシーでは、病気の経過だけでなく、病的な眠気の性質や持続時間が違います。
長時間眠ってしまうこの期間は「過眠病相期(びょうそうき)」と呼ばれ、病相期を一年に何度か繰り返す(中央値は3カ月に一度)ことも反復性過眠症の大きな特徴です。病名に冠された「反復性」の文字も、病相期が繰り返すことを意味しています。
病相期には1日16~20時間も眠ってしまう反復性過眠症ですが、食事や排泄のために目覚めることはでき、誰かが無理やり起こそうとすれば、いったんは目覚められるのも特徴です。
「ただし、起きてはいても“心ここにあらず”の状態。患者さんのほとんどが病相期の目覚めている時間を『夢の中にいるような感覚』と表現し、生き生きとした現実感がなくなってしまいます。精神症状として『離人症・現実感喪失』と言います。また周囲に無関心で自発性や積極性がなくなる『発動性低下』という症状もほとんどの患者さんに見られます。実際に過眠期に脳波を調べてみると、間欠期と比べて脳の働きそのものが低下しており、過眠期に起きているようにみえる時間も、脳がうとうとしている状態なのです」(本多先生)。
病相期のとくに後半には、ほかにも食欲不振や過食といった摂食障害が見られたり、主に男性の場合は性欲亢進、女性の場合は抑うつ的になったり、不安感が強いときには幻覚や幻聴を訴える患者さんもいるとのこと。しかし病相期を終えると、眠気や睡眠時間が正常に戻るのと同時に、こうした認知・行動障害も完全に消えます。
強い眠気と過度な睡眠を繰り返し、認知・行動障害も伴う反復性過眠症ですが、非常に珍しい病気でもあります。
「どれくらいまれかというと、有病率は100万人に1人から2人。日本でも症例報告はそれなりにあるのですが、有病率が導き出せるような疫学調査はありません。2004年から現在までに私自身が診察・治療した例も、わずか13例です」(本多先生)。
症例の少なさもあり、反復性過眠症の原因は不明。ただし、10代の思春期早期に発症するケースが多く、女性に比べ、男性の有症率が高いそうです。
症例が少ない一方で症状がわかりやすく、「これは明らかにおかしい」と医療機関を受診される患者さんが多いそうですが、過眠に伴う認知・行動障害から、精神疾患ではないかという、誤った診断を下されることもあるといいます。
「過眠症には『精神疾患に関連する過眠症』という診断分類もあり、その患者の多くは気分障害に伴うものです。冬季うつ病で落ち込んでいるときに眠気が強まり睡眠時間が延長するパターンが多いです。一方の反復性過眠症は気分の落ち込みはなく、前兆として1-2日の不調感・倦怠感が自覚される場合もありますが、いきなり過眠期にはいります。過眠期を抜けて間欠期になる時も、数日以内に全く正常にもどります。気分障害における変化は一般に週単位となるため、経過の違いが見分けるポイントです」(本多先生)。
とはいえ、自己判断は禁物。精神疾患の治療を受けても改善が見られず、反復性過眠症を疑う場合には、睡眠障害専門の医療機関を受診することが大切です。
「現段階では、根本的な治療は確立されていません。一度、病相期に入ると手立てがなく、発病しないための予防策を講じることが基本となります」(本多先生)。
そこで用いられている治療薬が、主に気分安定剤として処方される「炭酸リチウム」です。(130人の患者さんのうち71人に)炭酸リチウムを十分使用すると発病が年に3.8回から2.9回に減り(ただし非リチウム群でも3.4回から1.7回に減少)、病相期で日常生活行動ができない日数も57日から21日に短縮された(非リチウム群では44日が38日と変化なし)という報告があるそう。
反復性過眠症を初めて発症する直前に、何らかの感染症に罹患していた患者さんが多いそう。病相期が再発する場合も、睡眠不足や感染症が病相期のキッカケになるとの報告がされているため、「感染症にかからないよう、規則正しい生活を心掛け、健康的な毎日を過ごすことが予防策となります」(本多先生)。また「妙に疲れる・眠気を感じる」といった予兆を感じたら、けっして無理をしないこと。日常的に無理をせず、睡眠時間をしっかり確保することが、病相期にはいっても短期間で抜け出ることにつながります。
10代の思春期早期に発病した場合、平均値を14年として徐々に症状が治まる傾向にあるそうですが、特に成人期に発病したケースでは、自然に治癒することが難しい場合もあります。現状は、確立された治療法がないため、一生付き合っていく病気だと理解することも大切です。
本多先生が指摘する通り、反復性過眠症にならないためには「健康的な毎日を過ごすこと」。そして質の高い睡眠は、健康な毎日の土台です。こうした病とは無縁だと思っている方も眠気を感じるときには無理をせず、なるべく睡眠をとってくださいね。
長時間眠り続ける状態を繰り返す反復性過眠症
眠気とは生理的にも生じるもの。そのため、自分の眠気が過眠症による病的なものなのか、自己判断するのは難しい側面があります。「しかし反復性過眠症に関しては、ある意味、わかりやすい。この病気を発症すると、日常生活が困難なほどの強い眠気に襲われ、否応なしに眠ってしまう状態が数日間から数週間も持続します。でも間欠期には、何事もなかったかのように正常に戻ります。つまり重度の過眠期が繰り返して生じるという経過から診断できるのです。」(本多先生)。
抗いがたい眠気によって眠りに就くと、継続して1日に16~20時間も眠ってしまうそう。さらには過度な睡眠状態が2.5日から80日(中央値は10日間)ほど持続し、まれに数カ月間に及ぶことまであります。
過眠症というと日中に強い眠気に襲われる「ナルコレプシー」を思い浮かべる人もいるかと思いますが、ナルコレプシーの人の日中居眠り持続時間は、寝不足や無呼吸症候群など他の原因がなければ、一度に10~20分程度。短時間の居眠りをするとすっきり目覚め、1-2時間後に再び強い眠気に襲われるのが特徴です。反復性過眠症とナルコレプシーでは、病気の経過だけでなく、病的な眠気の性質や持続時間が違います。
長時間眠ってしまうこの期間は「過眠病相期(びょうそうき)」と呼ばれ、病相期を一年に何度か繰り返す(中央値は3カ月に一度)ことも反復性過眠症の大きな特徴です。病名に冠された「反復性」の文字も、病相期が繰り返すことを意味しています。
病相期には1日16~20時間も眠ってしまう反復性過眠症ですが、食事や排泄のために目覚めることはでき、誰かが無理やり起こそうとすれば、いったんは目覚められるのも特徴です。
「ただし、起きてはいても“心ここにあらず”の状態。患者さんのほとんどが病相期の目覚めている時間を『夢の中にいるような感覚』と表現し、生き生きとした現実感がなくなってしまいます。精神症状として『離人症・現実感喪失』と言います。また周囲に無関心で自発性や積極性がなくなる『発動性低下』という症状もほとんどの患者さんに見られます。実際に過眠期に脳波を調べてみると、間欠期と比べて脳の働きそのものが低下しており、過眠期に起きているようにみえる時間も、脳がうとうとしている状態なのです」(本多先生)。
病相期のとくに後半には、ほかにも食欲不振や過食といった摂食障害が見られたり、主に男性の場合は性欲亢進、女性の場合は抑うつ的になったり、不安感が強いときには幻覚や幻聴を訴える患者さんもいるとのこと。しかし病相期を終えると、眠気や睡眠時間が正常に戻るのと同時に、こうした認知・行動障害も完全に消えます。
認知・行動障害を伴うため、精神疾患と間違うことも
強い眠気と過度な睡眠を繰り返し、認知・行動障害も伴う反復性過眠症ですが、非常に珍しい病気でもあります。
「どれくらいまれかというと、有病率は100万人に1人から2人。日本でも症例報告はそれなりにあるのですが、有病率が導き出せるような疫学調査はありません。2004年から現在までに私自身が診察・治療した例も、わずか13例です」(本多先生)。
症例の少なさもあり、反復性過眠症の原因は不明。ただし、10代の思春期早期に発症するケースが多く、女性に比べ、男性の有症率が高いそうです。
症例が少ない一方で症状がわかりやすく、「これは明らかにおかしい」と医療機関を受診される患者さんが多いそうですが、過眠に伴う認知・行動障害から、精神疾患ではないかという、誤った診断を下されることもあるといいます。
「過眠症には『精神疾患に関連する過眠症』という診断分類もあり、その患者の多くは気分障害に伴うものです。冬季うつ病で落ち込んでいるときに眠気が強まり睡眠時間が延長するパターンが多いです。一方の反復性過眠症は気分の落ち込みはなく、前兆として1-2日の不調感・倦怠感が自覚される場合もありますが、いきなり過眠期にはいります。過眠期を抜けて間欠期になる時も、数日以内に全く正常にもどります。気分障害における変化は一般に週単位となるため、経過の違いが見分けるポイントです」(本多先生)。
とはいえ、自己判断は禁物。精神疾患の治療を受けても改善が見られず、反復性過眠症を疑う場合には、睡眠障害専門の医療機関を受診することが大切です。
発症しないために!日頃から行うべき予防策とは
では、反復性過眠症には、どのような治療法があるのでしょう?「現段階では、根本的な治療は確立されていません。一度、病相期に入ると手立てがなく、発病しないための予防策を講じることが基本となります」(本多先生)。
そこで用いられている治療薬が、主に気分安定剤として処方される「炭酸リチウム」です。(130人の患者さんのうち71人に)炭酸リチウムを十分使用すると発病が年に3.8回から2.9回に減り(ただし非リチウム群でも3.4回から1.7回に減少)、病相期で日常生活行動ができない日数も57日から21日に短縮された(非リチウム群では44日が38日と変化なし)という報告があるそう。
反復性過眠症を初めて発症する直前に、何らかの感染症に罹患していた患者さんが多いそう。病相期が再発する場合も、睡眠不足や感染症が病相期のキッカケになるとの報告がされているため、「感染症にかからないよう、規則正しい生活を心掛け、健康的な毎日を過ごすことが予防策となります」(本多先生)。また「妙に疲れる・眠気を感じる」といった予兆を感じたら、けっして無理をしないこと。日常的に無理をせず、睡眠時間をしっかり確保することが、病相期にはいっても短期間で抜け出ることにつながります。
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10代の思春期早期に発病した場合、平均値を14年として徐々に症状が治まる傾向にあるそうですが、特に成人期に発病したケースでは、自然に治癒することが難しい場合もあります。現状は、確立された治療法がないため、一生付き合っていく病気だと理解することも大切です。
本多先生が指摘する通り、反復性過眠症にならないためには「健康的な毎日を過ごすこと」。そして質の高い睡眠は、健康な毎日の土台です。こうした病とは無縁だと思っている方も眠気を感じるときには無理をせず、なるべく睡眠をとってくださいね。
医学博士
本多 真 先生
精神科臨床医よりキャリアをスタート。スタンフォード大学睡眠研究所に留学後、睡眠研究の世界に。現在は神経研究所附属の診療施設(晴和病院・小石川東京病院)にて睡眠専門外来をしながら、東京都医学総合研究所にてナルコレプシー/過眠症に焦点を当てた研究に従事。同研究所が睡眠障害の病因・病態解明と治療法開発のために立ち上げたプロジェクトのリーダーを務める。
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