カテゴリ:眠り
高齢者を悩ませる中途覚醒!睡眠医療の権威が推奨する、意外な改善策とは?
睡眠中に目が覚めて、その後、なかなか寝つくことができない「中途覚醒」。熟睡感を得にくくなり、不眠症につながることも懸念される睡眠障害の一種で、高齢者に多いのが特徴です。
そこで今回はスリープクリニック調布院長・慶應義塾大学 医学部 睡眠医学研究寄附講座特任教授の遠藤拓郎先生に監修いただき、中途覚醒の原因はもちろん、改善策から症状の影に隠れている病気まで、わかりやすくひもときます!
遠藤先生が指摘する睡眠力とは、睡眠の深さ。睡眠の深さによって、朝まで起きることなく眠れるか、途中で目が覚めてしまうかが決まります。
「睡眠力を理解するには、坂道を自転車で下る様子をイメージしてみてください」(遠藤先生)。
急勾配の坂道の場合、自転車をこぎ始めた直後から一気に加速がつき、漕がなくても走り続けることができます。途中に障害物があったとしても勢いに乗ったまま、難なく乗り越えられるはずです。反対に傾斜のゆるい坂道では勢いがつかず、スピードに乗ることができません。この状態で障害物に出くわしたとしたら、転んでしまうことでしょう。
勘の良い方は、すでにお気づきかもしれませんね!そう、坂道の傾斜の違いが、睡眠力の違いです。
睡眠力の高い若者は急勾配の坂道を下り、加齢によって睡眠力が低下した高齢者は緩勾配の坂道を下ります。緩勾配の坂道を下る高齢者は、朝まで眠るために必要な勢いを欠き、障害物を乗り越えることができません。つまりは、途中で起きてしまうのです。
「では、中途覚醒を引き起こす“障害物”とは何なのか。これを理解するには、睡眠のサイクルを知ることが必要です」(遠藤先生)。
そもそも睡眠とは、脳まで休眠している「ノンレム睡眠」とカラダは休眠していても脳は活動している「レム睡眠」の繰り返しから構成されます。入眠後、最初にノンレム睡眠の状態となり、次にレム睡眠の状態が訪れますが、2つは約90分ワンセット。この90分間をひとつの周期と捉え、一般的に私たちは、90分周期を4~5回繰り返した後に、目が覚めるといわれています。
そして、睡眠を坂道に例えたときの障害物とは、周期が切り替わるタイミングのこと。「睡眠力の高い若者であれば、周期の切り替わりも難なく乗り越えられ、朝まで目覚めることなく眠れます。しかし、睡眠力が低下した高齢者は第二周期への切り替わりはどうにか乗り換えられたとしても、次に訪れる周期の切り替わりまでは乗り越えられない。すると、入眠から3時間程度で目が覚めてしまうのです」(遠藤先生)。
原因が加齢である以上、仕方のないことではありますが、放置するのは望ましくありません。中途覚醒の改善策を立てることで、かつての熟睡感を取り戻せる可能性があるのです。
「改善策のヒントとなるのが、65歳という年齢です。65歳を境に睡眠の質が急激に低下し、睡眠薬の処方率も高まるというデータがありますが、65歳とは高齢者の入り口であるのと同時に、多くの方が定年退職を迎える年齢とも言えるでしょう」(遠藤先生)。
いうまでもなく、定年退職によって大きく変化するのが生活習慣です。仕事があれば、決まった時間に起床し、日中は精力的に活動。疲労感によって深い睡眠がとれますが、定年退職後は自由な時間がたっぷりあります。決まった時間に起きる必要がないことから、朝寝坊をする人が増加。時間を持て余し、日中に居眠りをしたり、早めに寝床に入ったりする人が増える傾向にあるといいます。
「日中の活動量が少なく、さらには朝寝坊や居眠り、寝床に入る時間が早まるとなれば、夜の睡眠が浅くなるのは当然のこと。加齢という抗いがたい現象に加え、生活習慣の変化がより一層、中途覚醒を引き起こしやすくしているのです」(遠藤先生)。
つまり中途覚醒の改善策とは、起きている時間を増やすこと!
遠藤先生は「病気でない限り、日中は適度にカラダを動かし、朝寝坊や居眠りは控えること。趣味を楽しんだり、ボランティアに精を出したり、はたまたアルバイトを始めてみたり。余暇の時間をアクティブに過ごし、肉体的にも精神的にも適度に疲労することが深い睡眠を招き、中途覚醒を減少させます」と指摘します。
さらには日中のアクティブな活動により、日頃のストレスを溜めないことも睡眠力アップに直結するそう。「ストレスを溜めると『コルチゾール』というホルモンが分泌されます。コルチゾールは心拍数・血圧・体温を上昇させ、これらが上昇すると眠りづらくなってしまうのです」(遠藤先生)。
ちなみに、遠藤先生が推奨する睡眠時間は7時間程度。アメリカで実施された大規模調査から明らかになった「およそ6時間半から7時間半の睡眠をとる人が、6年後の生存率が最も高い」というデータに基づきます。また、早く寝床に入ることはせず、深夜0時から朝7時までの睡眠を勧めているそうです。
そもそも睡眠薬とは、寝つきに効果を発揮するものであり、中途覚醒に対する直接的な効果はないそう。坂道を例にすれば、睡眠薬は坂道を下るためのエンジンをかける役割であり、障害物を乗り越える力は持たないのです。
そのことを知らず、睡眠薬の量を増やすことは厳禁です。「中途覚醒に悩まれている場合、一度の服用量を増やすより、寝る前と中途覚醒が起こったときの二度服用するか、寝る前には飲まず、中途覚醒が起こった段階で服用するのが効果的です」(遠藤先生)。
また、睡眠薬の副作用として挙げられるのが、筋肉の弛緩による転倒。遠藤先生は「転倒のリスクを下げるため、睡眠薬は寝床に入ってから飲むことを推奨しています。誤嚥(ごえん)の心配がある場合には、口内で溶ける睡眠薬を希望するのもひとつの手です」と指摘します。
いずれにしても、睡眠薬を服用するには医師の指示に従うことが大前提ですが、中途覚醒の影に病気が隠れていることもあるため、ご自身の睡眠に不安を感じたら、やはり医療機関の受診が大切です。
中途覚醒に隠れている病気の代表例として、むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害、男性の場合は前立腺肥大による夜間頻尿が挙げられます。なかでも特に多い病気として遠藤先生が警鐘を鳴らすのが「睡眠時無呼吸症候群」です。
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中、一時的に呼吸が止まってしまう疾患のこと。一般的に太めの体型の人がかかりやすい病気として知られていますが、遠藤先生は「加齢によっても罹患率は高まります」と指摘。睡眠時無呼吸症候群は、主に気道が狭まることで生じますが、加齢によって気道を支える組織の強度が低下。息を吸うときに気道を支える能力も低下し、無呼吸の状態を引き起こしやすくなるのです。
「中途覚醒も症状のひとつですが、いびきをかいている方も、睡眠時無呼吸症候群の可能性が大いにあります。睡眠中に『CPAP(シーパップ)』という医療機器を装着することで十分に改善が見込まれるため、まずは医療機関を受診してください」(遠藤先生)。
***
「これからは『人生100年』の時代。高齢者の方も人生の目標を作り、ワクワクするような日常を過ごしてください。そのワクワク感が日中のアクティブな活動につながり、ひいては健全な睡眠につながるのです」(遠藤先生)。
夢中になれる何かを見つけ、日中も眠りの時間も、健やかな毎日を目指してくださいね!
そこで今回はスリープクリニック調布院長・慶應義塾大学 医学部 睡眠医学研究寄附講座特任教授の遠藤拓郎先生に監修いただき、中途覚醒の原因はもちろん、改善策から症状の影に隠れている病気まで、わかりやすくひもときます!
高齢者の睡眠は“傾斜のゆるい坂道”!?
高齢者に多いという特徴から推察できる通り、中途覚醒が起こる主たる理由は加齢。遠藤先生は「加齢によって“睡眠力”が低下することが、中途覚醒の原因です」と指摘します。遠藤先生が指摘する睡眠力とは、睡眠の深さ。睡眠の深さによって、朝まで起きることなく眠れるか、途中で目が覚めてしまうかが決まります。
「睡眠力を理解するには、坂道を自転車で下る様子をイメージしてみてください」(遠藤先生)。
急勾配の坂道の場合、自転車をこぎ始めた直後から一気に加速がつき、漕がなくても走り続けることができます。途中に障害物があったとしても勢いに乗ったまま、難なく乗り越えられるはずです。反対に傾斜のゆるい坂道では勢いがつかず、スピードに乗ることができません。この状態で障害物に出くわしたとしたら、転んでしまうことでしょう。
勘の良い方は、すでにお気づきかもしれませんね!そう、坂道の傾斜の違いが、睡眠力の違いです。
睡眠力の高い若者は急勾配の坂道を下り、加齢によって睡眠力が低下した高齢者は緩勾配の坂道を下ります。緩勾配の坂道を下る高齢者は、朝まで眠るために必要な勢いを欠き、障害物を乗り越えることができません。つまりは、途中で起きてしまうのです。
「では、中途覚醒を引き起こす“障害物”とは何なのか。これを理解するには、睡眠のサイクルを知ることが必要です」(遠藤先生)。
そもそも睡眠とは、脳まで休眠している「ノンレム睡眠」とカラダは休眠していても脳は活動している「レム睡眠」の繰り返しから構成されます。入眠後、最初にノンレム睡眠の状態となり、次にレム睡眠の状態が訪れますが、2つは約90分ワンセット。この90分間をひとつの周期と捉え、一般的に私たちは、90分周期を4~5回繰り返した後に、目が覚めるといわれています。
そして、睡眠を坂道に例えたときの障害物とは、周期が切り替わるタイミングのこと。「睡眠力の高い若者であれば、周期の切り替わりも難なく乗り越えられ、朝まで目覚めることなく眠れます。しかし、睡眠力が低下した高齢者は第二周期への切り替わりはどうにか乗り換えられたとしても、次に訪れる周期の切り替わりまでは乗り越えられない。すると、入眠から3時間程度で目が覚めてしまうのです」(遠藤先生)。
中途覚醒改善のカギは“アクティブな活動”!
原因が加齢である以上、仕方のないことではありますが、放置するのは望ましくありません。中途覚醒の改善策を立てることで、かつての熟睡感を取り戻せる可能性があるのです。
「改善策のヒントとなるのが、65歳という年齢です。65歳を境に睡眠の質が急激に低下し、睡眠薬の処方率も高まるというデータがありますが、65歳とは高齢者の入り口であるのと同時に、多くの方が定年退職を迎える年齢とも言えるでしょう」(遠藤先生)。
いうまでもなく、定年退職によって大きく変化するのが生活習慣です。仕事があれば、決まった時間に起床し、日中は精力的に活動。疲労感によって深い睡眠がとれますが、定年退職後は自由な時間がたっぷりあります。決まった時間に起きる必要がないことから、朝寝坊をする人が増加。時間を持て余し、日中に居眠りをしたり、早めに寝床に入ったりする人が増える傾向にあるといいます。
「日中の活動量が少なく、さらには朝寝坊や居眠り、寝床に入る時間が早まるとなれば、夜の睡眠が浅くなるのは当然のこと。加齢という抗いがたい現象に加え、生活習慣の変化がより一層、中途覚醒を引き起こしやすくしているのです」(遠藤先生)。
つまり中途覚醒の改善策とは、起きている時間を増やすこと!
遠藤先生は「病気でない限り、日中は適度にカラダを動かし、朝寝坊や居眠りは控えること。趣味を楽しんだり、ボランティアに精を出したり、はたまたアルバイトを始めてみたり。余暇の時間をアクティブに過ごし、肉体的にも精神的にも適度に疲労することが深い睡眠を招き、中途覚醒を減少させます」と指摘します。
さらには日中のアクティブな活動により、日頃のストレスを溜めないことも睡眠力アップに直結するそう。「ストレスを溜めると『コルチゾール』というホルモンが分泌されます。コルチゾールは心拍数・血圧・体温を上昇させ、これらが上昇すると眠りづらくなってしまうのです」(遠藤先生)。
ちなみに、遠藤先生が推奨する睡眠時間は7時間程度。アメリカで実施された大規模調査から明らかになった「およそ6時間半から7時間半の睡眠をとる人が、6年後の生存率が最も高い」というデータに基づきます。また、早く寝床に入ることはせず、深夜0時から朝7時までの睡眠を勧めているそうです。
睡眠薬の服用や中途覚醒に潜んだ病気に要注意!
起きている時間を増やすことで改善が見込まれる中途覚醒ですが、睡眠薬を服用している方もいるはずです。そこで遠藤先生は「お薬に頼ることは、中途覚醒によるストレスを溜めないためにも否定しませんが、服用方法には注意が必要です」と指摘します。そもそも睡眠薬とは、寝つきに効果を発揮するものであり、中途覚醒に対する直接的な効果はないそう。坂道を例にすれば、睡眠薬は坂道を下るためのエンジンをかける役割であり、障害物を乗り越える力は持たないのです。
そのことを知らず、睡眠薬の量を増やすことは厳禁です。「中途覚醒に悩まれている場合、一度の服用量を増やすより、寝る前と中途覚醒が起こったときの二度服用するか、寝る前には飲まず、中途覚醒が起こった段階で服用するのが効果的です」(遠藤先生)。
また、睡眠薬の副作用として挙げられるのが、筋肉の弛緩による転倒。遠藤先生は「転倒のリスクを下げるため、睡眠薬は寝床に入ってから飲むことを推奨しています。誤嚥(ごえん)の心配がある場合には、口内で溶ける睡眠薬を希望するのもひとつの手です」と指摘します。
いずれにしても、睡眠薬を服用するには医師の指示に従うことが大前提ですが、中途覚醒の影に病気が隠れていることもあるため、ご自身の睡眠に不安を感じたら、やはり医療機関の受診が大切です。
中途覚醒に隠れている病気の代表例として、むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害、男性の場合は前立腺肥大による夜間頻尿が挙げられます。なかでも特に多い病気として遠藤先生が警鐘を鳴らすのが「睡眠時無呼吸症候群」です。
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中、一時的に呼吸が止まってしまう疾患のこと。一般的に太めの体型の人がかかりやすい病気として知られていますが、遠藤先生は「加齢によっても罹患率は高まります」と指摘。睡眠時無呼吸症候群は、主に気道が狭まることで生じますが、加齢によって気道を支える組織の強度が低下。息を吸うときに気道を支える能力も低下し、無呼吸の状態を引き起こしやすくなるのです。
「中途覚醒も症状のひとつですが、いびきをかいている方も、睡眠時無呼吸症候群の可能性が大いにあります。睡眠中に『CPAP(シーパップ)』という医療機器を装着することで十分に改善が見込まれるため、まずは医療機関を受診してください」(遠藤先生)。
***
「これからは『人生100年』の時代。高齢者の方も人生の目標を作り、ワクワクするような日常を過ごしてください。そのワクワク感が日中のアクティブな活動につながり、ひいては健全な睡眠につながるのです」(遠藤先生)。
夢中になれる何かを見つけ、日中も眠りの時間も、健やかな毎日を目指してくださいね!
スリープクリニック調布 院長/慶應義塾大学医学部睡眠医学研究寄附講座特任教授
遠藤拓郎 先生
医学博士、日本睡眠学会専門医、日本精神神経学会精神科専門医。親子3代にわたって睡眠研究に携わる、睡眠医療の世界的権威。睡眠にまつわる著書も多く執筆し、2009年発行の『4時間半熟睡法』(フォレスト出版)がベストセラーに。近著は自身が提唱する睡眠コントロール術を漫画でわかりやすく解説した江川達也との共著『睡眠はコントロールできる』(メディアファクトリー新書)。
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