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イルカってどう眠るの?水族館の飼育員さんに聞いた「水の生き物の睡眠」を解説!

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イルカってどう眠るの?水族館の飼育員さんに聞いた「水の生き物の睡眠」を解説!

夏休みに、海や川、または水族館に訪れた人もいるのではないでしょうか?

そこで気になるのが、水の生き物たちの睡眠。以前、『眠りのレシピ』では陸に住む動物の睡眠時についてご紹介しましたが、言うまでもなく、水の生き物の住みかは水中。果たして彼らはどのように眠り、そしてどのくらい眠るでしょう?

前身である江の島水族館を含めると70年近い歴史を持つ、「新江ノ島水族館」の飼育員さんに解説していただきました!

 

まぶたのない種類も?水の生物たちの睡眠事情

新江ノ島水族館では、大人気のイルカだったり、まるでアート作品のように展示しているクラゲだったり、さらには水深200m以上の真っ暗闇にくらす深海生物だったり、約640種26000匹の水棲生物を飼育し、展示しています。

水棲生物の生態は、実にさまざま。なかにはアザラシやペンギン、ウミガメのように常時水中にいるわけではなく、ときには陸に上がってくる生き物もいます。それだけに、眠り方や睡眠時間もいろいろ。私たち人間は眠らなくては生きていけませんが、水棲生物のなかには「一生、眠らない!?」なんて言われている生き物もいます。

実は、水棲生物の睡眠を調べるのは簡単ではありません。私たち人間も同じように、目をつぶってじっとしているだけでは、本当に眠っているとは断定できないからです。しかも、まぶたを持たない水棲生物もいるため、そうした種類は目を閉じることがありません。

本当に眠っているかどうかを調べるには、陸上で生活している生き物については脳波を計測し科学的に示すことができますが水棲生物の脳波をとるのはとっても難しい…。そのため、今回は世界の研究機関が調べたデータも交えながら、飼育員さんの考察を元に解説いただきました。

 

どうやって眠るの?生き物の種類ごとにご紹介

【哺乳類】
イルカ:

当館のイルカを観察していると、個体によってさまざまな寝方があるようです。なかでも多いのが、プールの底でじっとしているイルカや水面に浮いているイルカです。また、子どものイルカは母イルカのお腹の下につき、泳ぎながら寝ている様子が多く見られます。

イルカは右脳と左脳を別々に休ませることができる生物です。右脳を休ませているときは左眼を、左脳を休ませているときには右眼をつぶります。子イルカを見ていると、その様子がよくわかります。

野生の環境は水族館とは違い、外敵から身を守らないといけません。そのため野生下のイルカは熟睡せず、泳ぎながら意識のある状態で、脳を片方ずつ休ませているのです。当館のイルカたちは、水族館の環境に適応し泳ぎをとめて睡眠をとることがあります。もちろん野生のイルカと同じように泳ぎながら片目をつぶり、休息しているイルカもいます。

アザラシ:
アザラシは陸上と水中を行き来する生物です。陸上ではうつ伏せ、もしくは横向きで眠ることが多く、仰向けで眠る個体は珍しいと思います。

反対に水中では、いろいろな寝方をします。うつ伏せ、横向き、仰向けはもちろん、逆立ちになったり、岩場に挟まったり、水面に顔だけを出し、立ち泳ぎをしながら眠る様子も見られます。

【甲殻類】
カニ、エビ:

カニやエビの睡眠については、あまり研究が進んでいません。そのため、彼らは寝ているかどうかさえ、正確にはわかっていないのです。岩陰などに身を潜め、じっと動かずに休息していると考えられていますが、ときには砂に潜りながらエサの待ち伏せをしていることもあるため、身を潜めた状態が本当に休息なのかどうか、定かではありません。

【魚類】
アジ、イワシ:

アジやイワシは「回遊魚」の一種です。回遊魚とは、生涯にわたって移動を続ける魚のこと。常に止まることなく遊泳しているため、「まったく眠らない」といった説や「数秒だけ眠る」といった説があります。

ですが、水族館でマイワシなどを観察していると、館内の消灯中は泳ぐ早さがゆったりとなり、代謝を抑えて遊泳している様子が見られます。また、マイワシは群れを作って遊泳しますが、夜の休息中は群れているイワシ同士の間隔が広くなります。
ちなみに、イワシは身体に色素のない子どもの頃(「シラス」の時期)は、夜になると浮き袋を膨らませて水面に浮き、休息をとることが知られています。子どもの時期は、遊泳中は常に食べていないと餓死してしまうため、エサを捕食できない暗い時間帯はしっかりと休息をとり、エネルギーが途切れないようにしているようです。

マグロ、サンマ:
アジやイワシと同様に、マグロやサンマも回遊魚の一種です。そのため、睡眠についても同じように「まったく眠らない」「数秒だけ眠る」といった説があります。ですが、飼育経験からすると、遊泳しながら休息していると考えられます。

カクレクマノミ:
カクレクマノミの住みかはイソギンチャクです。そのため、休息の場所もイソギンチャク。自分が生活しているイソギンチャクの中に埋もれるようにして休みます。

【鳥類】
ペンギン:

新江ノ島水族館では、主に4パターンを観察したことがあります。

1つ目は立ったままの体勢。危険や異常時に即対応できるよう、目をつぶって休んでいる状態です。人間に例えるなら、電車の吊革につかまりながら、うとうとしている状態に近いかもしれません。

2つ目はお尻を地面につけ、足を前に投げ出している体勢。この体勢、まるで立っているように見えますが、ペンギンの骨格からすると、実は座っているのです。お尻を地面に付けていることから、お尻と両足の3点で身体を支えている状態です。立ったまま寝ているときよりもリラックスし、日中に休んでいるときは、この体勢が多いようです。

3つ目は腹ばいの体勢です。夜間、安心できる自分の縄張りで眠るときは、この姿勢で休息しています。特につがいのペンギンがいると、腹ばいの姿勢になり、相手の身体に首をのせて休んでいる様子も見られます。また、就寝中は体温が上がるため、地肌が見えている薄いだいだい色の部分が、ほんのり赤くなるのも見て取れます。

4つ目は泳ぎながら眠る、です。ペンギンの仲間には「採餌旅行」といって、泳ぎながら「渡り」をする期間を持つ種類がいます。こうした種類は、陸に上がれないときは海上で眠るようです。新江ノ島水族館で飼育しているペンギンは「渡り」をしませんが、巣立ったばかりの幼鳥が環境に慣れていないときになかなか陸に上がらず、そのまま水面で寝てしまうことがあります。

【爬虫類】
ウミガメ:

水底に沈み、じっとして休みます。ときには波打ち際のような場所で休んでいることもありますが、これは外敵がいない水族館ならではなのかもしれません。自然界にはサメをはじめとする外敵がいるため、海底の岩陰などに隠れて休息することがあります。

 

どのくらい眠るの?水の生き物の睡眠時間

【哺乳類】
イルカ:

イルカの睡眠時間については、世界的にも共通の答えはないようです。編集部の調べでは、イルカは外敵から身を守ったり呼吸をしたりするため、「数分単位の細切れに睡眠をとる」と言われています。人間のように数時間のまとまった睡眠をとるのではなく、寝たり起きたりを繰り返しているようです。

アザラシ:
野生のキタゾウアザラシは、発表されているデータによると平均睡眠時間は2〜10時間。20分未満のうたた寝を繰り返しているといいます。アザラシは陸に上がることのできる生物。平均睡眠時間に開きがあるのは、1日の多くを水中で過ごすのか、陸上で過ごすかによって、睡眠時間が変わってくるようです。

当館のアザラシを観察していると熟睡することは基本的になく、夜間や早朝には起きています。断定することはできませんが、少なくとも6時間前後の休息時間を確保しているように思われます。

【甲殻類】
カニ、エビ:

先ほども述べたようにカニの睡眠時間も、あまり研究が進んでいない分野です。ですが、多くの種類が夜行性のため、日中は岩陰などに身を潜め、じっと動かないままの時間が多く見られます。この時間が人間の睡眠に当たる休息時間だと考えられますが、ときには砂の中に潜って狩りの待ち伏せをしていることもあるため、実際に休んでいるかは定かではありません。

【魚類】
アジ、イワシ:

「まったく眠らない」「数秒だけ眠る」といった説のある回遊魚ですが、水族館でマイワシなどを観察していると、館内の消灯中は泳ぐ早さがゆったりとなり、代謝を抑えて遊泳している様子が見て取れます。

これを「眠っている」「休んでいる」とするならば、当館の消灯時間は17時30分くらいから翌朝7時30分くらいまでのため、約14時間の睡眠ないし休息をとっていることになります。

ただし、自然下では地域や季節により、明るい時間帯と暗い時間が変化します。日本では夏至と冬至で日中の時間が3時間ほど変動するため、当館のマイワシを目安に考えると、平均12時間ほどを睡眠や休息と思われる状態に当てているのではないでしょうか。

マグロ、サンマ:
アジやイワシと同様に、マグロやサンマも回遊魚の一種。先ほども述べたように睡眠についても「まったく眠らない」「数秒だけ眠る」といった説がありますが、遊泳しながら休息をとっていると考えられます。残念ながら、睡眠時間についてはわかりません。

カクレクマノミ:
カクレクマノミに関しても、睡眠時間を計測するのは困難。館内の照明を消すと自分が生活しているイソギンチャクの中に入って休みますが、イソギンチャクの中で動くこともあるため、寝ているかどうかの判断が難しいのです。

【鳥類】
ペンギン:

当館で飼育しているフンボルトペンギンたちは、夕方の食事の後、水浴びや羽繕いなどが終わる消灯時間のころには、ほとんどの個体が眠りに入ります。就寝後も人間が寝返りを打つように、ときに体勢を変えています。また、翌朝に飼育員が入室するまでは、ゆったりとした状態で休んでいるペンギンたちがほとんどです。


これらのことを踏まえると、日暮れから日が昇るまでの8時間前後は睡眠に当てているように思います。しかし、熟睡している時間はあまり長くなく、物音がしたり異常を感じたりすると、すぐに起きられる状態ではあるようです。一方、日中も朝の食事後、水浴びや羽繕いが終わり、飼育員が入室しなければ、2〜3時間ほどは休息しているようです。

夜と日中の睡眠を総合的に見ると、1日に10時間前後は寝ているのではないでしょうか。ただし、これが野生のペンギンも同様かというと、そうとは限りません。野生のペンギンの睡眠時間は定かではありませんが、子育てをしていない場合、巣に戻った時間を就寝に費やしているのではないか、と考えられます。
【爬虫類】
ウミガメ:

ウミガメは肺呼吸をする生物です。呼吸をするために30〜40分ごとに水面に上がってきますが、ウミガメは最大2〜3時間の潜水が可能です。そのため、夜間の睡眠も潜水可能時間いっぱいの2〜3時間程度だと考えられます。
 
***
飼育員さんが解説してくれたように、水の生き物は眠り方も睡眠時間もさまざま。なかにはペンギンのように日中も眠る、つまりはお昼寝をする生物もいるようです。

実際に水族館を訪れたなら、お昼寝をする姿を見ることができるかも!その様子を観察しに行くのはもちろん、水棲生物の睡眠についてもっと詳しく知りたい方は、水族館の飼育員さんに尋ねてみてください。水の生き物への興味が、さらに広がるはずです。
 

新江ノ島水族館

神奈川県藤沢市にある水族館、通称“えのすい”。1954年に日本における近代的水族館の第1号として誕生。2004年に「新江ノ島水族館」としてリニューアル。現在は約640種26000点もの水棲生物が飼育・展示され、イルカショーや2万匹の魚たちが泳ぐ大水槽、世界有数のクラゲ展示など、見どころが盛りだくさん。

新江ノ島水族館の公式サイト

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