2024年02月29日 カテゴリ:眠り

「ネントレ」ってどうやるの?科学的に正しいやり方とよくある失敗について、医師に聞きました

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「ネントレ」ってどうやるの?科学的に正しいやり方とよくある失敗について、医師に聞きました

赤ちゃん期から幼児期にかけて、子どもがなかなか寝てくれなくて困るお母さんお父さんは多いもの。

「ネントレ」と呼ばれる赤ちゃんの「ねんねトレーニング」はよく知られていますが、「本当にこれで合っているの?何が正しいやり方なの?」と不安に感じる方もいるでしょう。

そこで今回は、小児スリープコンサルタントの医師・森田麻里子先生に、ネントレの考え方や正しい方法、そしてよくある間違いや失敗についても教えていただきました。

   

 ネントレは「子どもを1人で寝かせること」だけじゃない?


「ねんねトレーニングには、狭義の意味と、広義の意味の2つがあると思っています」と森田先生。

狭義の意味では、授乳や抱っこなどの寝かしつけを最小限にし、子どもが1人で眠れるように練習することを指します。このメソッドは、1970年ごろにアメリカやヨーロッパで生まれたものです。

一方、広義の意味では、親子が良い睡眠を取れるようにするためのすべてのことを指します。子どもの睡眠環境を整えたり、昼寝のタイミングや起床・就寝時間などをその月齢に添ったサイクルに合わせてあげることも含まれます。

「ネントレと聞くと『子どもを1人で寝かせる練習』というイメージが強いかもしれませんが、実はそれだけではありません。日本の文化・生活環境を考えると、広義の意味でネントレを捉えていただいたほうが親しみやすいかと思います」

そもそも「ネントレ」は、子どもと別室で寝る「ひとり寝文化」が根強い欧米圏から誕生したため、「子どもを1人で寝かせる練習」というイメージがつくのは当然のことともいえます。

しかし、日本を含むアジア圏は「添い寝文化」。子どもを1人で寝かせることに抵抗を感じる方も多く、欧米圏ほど家が広くないため必然的に添い寝を選んでいる家庭もあります。

そのため、日本の文化や生活環境に親しみやすい広義の意味で使うことが多いそうです。
 

音、光、室温をチェック!


それでは具体的に、ネントレとはどのように進めていくのが良いのでしょうか。

「1人で寝る練習を始める前に、まずは子どもの『睡眠環境』と『生活リズム』を見直すことが先です」

「睡眠環境」とは主に、音、光、室温の3つ。音に敏感な子どもはわずかな生活音、光に敏感な子は電子機器の動作ランプでも目が覚めてしまうことがあります。

ホワイトノイズと呼ばれる雑音を流すことで生活音を消したり、さくアルミホイルを切って黒のマスキングテープで動作ランプを隠したり遮光カーテンを活用するなど、子どもが静かに眠れる環境を整えていきます。

室温は20℃前後を推奨。しかし、夏場は現実的に難しいかと思いますので、そんな時は25〜27℃程度の冷房をかけ、必要なら除湿をし、服装で調整してあげましょう」

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月齢や年齢に合わせた睡眠のリズムを知ろう


次に重要なのは「生活リズム」。

乳幼児から小学校に入るまでの子どもの夜の睡眠時間は、昼寝をのぞいて10〜12時間が適しています。

「ただ、その子どもの適正睡眠時間が10〜12時間のどこに当てはまるかはわからないので、まずは『平均の11時間は取るように』とお伝えしています。朝7時に起きる必要があるなら、前日の夜8時までには寝かせる必要があるということです」

また、昼寝をしすぎてしまったり、反対に昼寝が足りないために疲れて興奮し、夜眠れなくなってしまうことも。あくまで目安ではありますが、昼寝は月齢や年齢によって、以下のように細かい段階を踏んで減っていきます。
 
月齢ごとの昼寝
・月齢3ヵ月:1時間半〜2時間ごと
・月齢3ヵ月〜6ヵ月:朝、昼、夕方と3回くらい
・月齢9ヵ月以降:午前中と午後早めの2回
・1歳〜1歳半:1回2時間のお昼寝を1回

「このように、子どもは大人と違う生活リズムを持つこと、またそれは月齢や年齢によって異なることを知っておくだけでも、その子の生活リズムを見直すきっかけになるかと思います。

また、3〜5歳の保育園児では昼寝の必要性が低下する一方で、2〜3時間の午睡がある場合も多く、どうしても夜早く寝てくれないこともあると思います。そのような場合には、例え9時間睡眠であったとしても午睡を含めたトータルの睡眠時間が足りており、かつ日中元気に過ごせていれば問題ありません」
 

入眠時関連型の夜泣きとは?


「生後6ヵ月を過ぎ、成長発達も問題ない。睡眠環境も生活リズムもやれることは全部やった。それなのになぜか寝てくれないとなって初めて、狭義の意味での『ネントレ』の出番です。授乳や抱っこなどの寝かしつけを最小限にし、子どもが1人で眠れるように練習をしていきます」

そもそも、このメソッドの背景には「入眠時関連型の夜泣き」があります。

例えば、いつもお母さんに抱っこや授乳された状態で眠りに就く子は、それが入眠時の習慣になります。すると、今後は抱っこや授乳がないと眠れないようになってしまうのです。

夜中に目が覚めるのは正常なことですが、その際にお母さんに抱っこされていないことに気づいて泣く。そして、もう1回眠りたくても、抱っこや授乳がないと眠れないので、お母さんが来るまで助けを求めて泣いてしまうのです。

「この入眠の習慣がもとになって起きる夜泣きを入眠時関連型と呼んでいます。一度身についた習慣を変えるのは、大人は大変ですが子どもは比較的早く柔軟に慣れてくれます。その特性を利用して最小限の寝かしつけで眠れるように導くというのが、ネントレの基本的な考え方になります」
 

ネントレの正しいやり方



それでは、具体的なメソッドとはどのようなものなのでしょうか。

まずは、ベーシックなやり方を紹介します。別室で寝かせることが主流なアメリカやヨーロッパで行われている方法です。
 
「ネントレ」のベーシックなやり方
Step1 : 子どもをベビーベッドに寝かせ、親は部屋を離れる
Step2:少し時間が経ったら様子を見にいき、声をかけたりトントンして、またすぐ部屋を出る
Step3:時間の間隔をちょっとずつ空けていく

「ベビーベッドがない場合は布団でも可能なケースもあります。ただ、親が部屋を出ると子どもが追いかけて布団を出てきてしまうので、お布団の周りにサークルを設置するなど対策しておくのがおすすめです。ベビーベッドやサークルがあれば、同室でも構いません。また、最初は真横に座っているけれど、3日ごとにだんだんと距離をとり、最後は部屋の外から見守るというやり方でもOKです」

次に、親と布団を並べて寝る家庭でできるやり方です。
 
親と布団を並べて寝ている場合のやり方
Step1:子どものすぐ横に座る
Step2:泣き始めるようなら、トントンしたり声かけをして寝るのを待つ
Step3:トントンと声かけも減らしていき、最終的には横に座っているだけでも眠れるように

ネントレの方法は、その子の気質やご家庭の睡眠環境に合うやり方を選ぶのが良いそう。ただ、どのやり方にも共通している重要ポイントは『すぐに抱き上げない』『(お腹が空いていないタイミングでは)すぐに授乳しない』ことです。

「6ヵ月以上の赤ちゃんでも夜間授乳をなくす必要はありません。しかし、泣いたらすぐに抱っこしたり、寝かしつけのためだけに授乳したりしてしまうと、先ほどお伝えしたようにそれが習慣になってしまいます。その習慣を改善するには、ねんねトレーニングメソッドが効果的です。

一方、6ヵ月未満の赤ちゃんでは、寝かしつけにまだある程度のサポートが必要な場合も。この時期はまだ、抱っこや授乳で寝る習慣もそれほど強固ではないですから、まずは声かけやトントンを試して少し様子をみてもらいたいんです。

お腹が空いて泣いている場合もあれば、寝言だったり、ただ眠くて泣いている可能性もあります。すぐに授乳をしてしまうと、本来声かけで済んだはずのチャンスを逃してしまうことになるので、一旦我慢をしてみてもらいたいんですね。もちろん、それでも落ち着かなければ抱っこや授乳をしてみて大丈夫です」
 

ネントレのよくある失敗は「待てないこと」


ネントレの初日は、抱っこや授乳をするのを「最低2時間は待ってほしい」と森田先生。40分程度で寝てくれる場合がほとんどですが、中には2時間泣く子もいるため、長めに「最低2時間」と伝えているそうです。

「仮に、30分泣き止まなくて親御さんが罪悪感を抱いたり、不安になって抱き上げ授乳をしてしまうと、今度は 『30分泣けばお母さんが来てくれる』と子どもは学習してしまいます。すると、次の日からは30分以上泣く可能性が高くなります。

本格的にネントレを進めるには、親御さんの『やるぞ!』という覚悟が必要です。むしろその覚悟がなかったら、『一生懸命、長時間泣けばお母さんが来てくれる』という誤学習につながりますから、覚悟がしっかりできてから始めることが大切なんです」

最初に紹介した睡眠環境と生活リズムの見直しを徹底してからトレーニングを始めることを森田先生が推奨するのは、ネントレにはお母さん、お父さんの強い覚悟が必要だから。

「例えば、実際にネントレを始めてみたとしても、『もしかしたら睡眠環境が悪いのかもしれない...』と親御さんが不安になってしまうと、罪悪感が募り『2時間も待てない』と中断してしまうパターンは本当によくあります。

つまり『子どもも眠れないし、自分も眠れなくて本当に困っていて、かつやれることは全部やったのに解決しない』という親御さんが、『もうこれしかできることがない!』と納得して初めて推奨できる方法なんです。実際は、睡眠環境と生活リズムの見直しだけで改善されるケースは多いですし、授乳や抱っこでスムーズに寝てくれる子なのであれば、ネントレを無理にやる必要はまったくありません」

また、「ご近所の迷惑になってはいけない...」と、挫けてしまいそうになるお母さん、お父さんもいるかもしれません。しかし、「一般的なマンションの場合、窓をしっかりと閉めておけば外に漏れる声はそこまで気にならないことが多い」と森田先生。

「ネントレで一番時間がかかるのは、一般的には初日の就寝時です。ただ、赤ちゃんの就寝は20時前後ですので、街もまだそこまで静まり返っていない時間帯かと思います。

睡眠環境や生活リズムをしっかり整えておくことで、夜泣きはかなり減るはず。始める前の準備をしっかりしていれば、ねんねトレーニングメソッド自体もスムーズに進行できるかと思います。

それでも、ご近所の目が心配という方は、菓子折りを持ってご挨拶に行くのも良いでしょう」

夜泣きは我慢して当たり前、なんてない


最低2時間待つこと、睡眠環境や生活リズムの見直しを徹底することなど、決してハードルが低いとはいえない「ネントレ」ですが、やり方さえ間違えていなければ、確実に成果が出ることが科学的に実証されています。

森田先生自身もお子さんが生後2ヵ月頃、夜泣きに悩んでいた1人でした。午後2時から夜の10時まで一切寝てくれず、その間ずっと抱っこしていたこともあったそうです。

「こんなに大変なのはおかしい」と、藁にもすがるような思いで海外の論文を調べ、実証されている通りにネントレを始めたところ、わずか3日で夜泣きが改善されたのです。

「ネントレは、ただでさえ育児で大変な親御さんたちに、さらに負荷をかけてしまうような側面もあるので安易に推奨できるわけではありません。しかし、正しいやり方でやれば、長くて2週間で確実に効果が出る方法です。

『夜泣きは我慢して当たり前』『親は寝られなくて当たり前』とされる風潮が社会にはありますが、決してそんなことはありません。親御さん自身がどうにかしたいと思えば改善する方法はあるということを、より多くの方に知っていただきたいです」

出典:Mindell JA, Kuhn B, Lewin DS, Meltzer LJ, Sadeh A; American Academy of Sleep Medicine. Behavioral treatment of bedtime problems and night wakings in infants and young children. Sleep. 2006 Oct;29(10):1263-76. Erratum in: Sleep. 2006 Nov 1;29(11):1380. PMID: 17068979.

***
 
「睡眠不足がつづいていては、育児を楽しむ余裕はなくなってしまいますよね。でも、我が子が赤ちゃんでいる時期はほんの一瞬ですから、その時期の子育ても存分に楽しんでもらいたいんです」と森田先生。

子育てを楽しむためにも、やはり睡眠改善は欠かせません。「自分の睡眠は後回し」と思わず、森田先生の「ネントレ」の考え方を参考に、できることからトライしてみてくださいね。

 

チャイルドヘルスラボラトリー代表 / 医師

森田 麻里子先生

2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016年南相馬市立総合病院にて麻酔科医として勤務。

2018年、夜寝なかった長男が3日で即寝体質になった経験をきっかけに、医学情報に基づき赤ちゃんの健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。著書に『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』ダイヤモンド社(3刷)、『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』光文社新書(amazonランキング1位)、『子育てで眠れないあなたに』KADOKAWAがある。

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