2024年02月21日 カテゴリ:眠り

不眠や疲れやすさの原因は、男性の更年期障害かも?テストステロンの低下と睡眠の関係性とは

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不眠や疲れやすさの原因は、男性の更年期障害かも?テストステロンの低下と睡眠の関係性とは

「最近、なんだか疲れがとれない」「仕事にも趣味にも意欲がわいてこない」――。

閉経に伴う女性の更年期障害はよく知られていますが、実は50代前後の男性にも更年期障害があることをご存知でしょうか。

疲れやすさやうつ症状、性欲の減退や勃起力の低下、そして不眠などさまざまな症状が見られ、仕事のパフォーマンスや日常生活に支障をきたすことも。

今回お話を伺ったのは、厚生労働省と連携した男性更年期障害についての情報の普及活動や、郵送で男性ホルモン値を測れる検査キットの監修などを行う、順天堂大学大学院泌尿器科特任教授の井手久満先生。男性ホルモンと不眠の関係性や予防と対策について教えていただきました。

   

男性の更年期障害とは?

女性の閉経に伴う更年期障害はよく知られていますが、男性も同様に男性ホルモン「テストステロン」の低下による更年期障害が起こります。年齢や症状には個人差がありますが、一般的には50歳前後から以下の症状が見られます。

<心の症状>
・疲れやすい
・興味や意欲の低下
・うつ症状
・眠れない
・元気がない、不安感

<体の症状>
・性欲の減退
・勃起力の低下
・節々の痛み
・ほてり
・肥満

「症状には疲れやすさ、節々の痛みやほてり、性欲の減退と勃起力の低下などがあります。これらは性交渉の有無に関わらず、興味や意欲の低下を招きます。仕事に集中できなかったり、自信を失くしてしまったり。心の症状にも密接に関係しているんですね」
 

加齢とストレスが更年期障害のきっかけに


女性の場合、女性ホルモンであるエストロゲンが50歳前後に激減し、閉経を迎え、やがてエストロゲンがほとんど分泌されなくなります。

一方、男性ホルモンであるテストステロンは、20代をピークにゆるやかに減少していきます。ストレスや生活習慣の乱れが重なることで一時的に分泌量が減ることはありますが、女性のようにある一定の時期に分泌がほぼゼロになるまで激減することはありません。

そのため、運動習慣があり健康的に過ごせている男性であれば、60代〜70代に更年期障害が起きることもあり得るのです。

「男性の場合は、女性の閉経のような大きなきっかけはなく、加齢によってゆるやかにホルモン値が下がっていきます。しかし、大きなきっかけがないにもかかわらず、50代前後で更年期障害に悩まされる人が多いのは、これまでの生活習慣やストレスによるものと考えられます。

50代前後は、仕事では中間管理職に就いたり、家庭ではローンを抱えていたり、子どもの就職や教育に悩んでいたりなど、何かとストレスの多い時期。加齢とストレスが重なり、一時的にテストステロンが減少することで、症状が見られるようになります」
 

相関関係が考えられる、男性ホルモンと不眠の関係性

男性の更年期障害の症状の1つに不眠があります。

「男性ホルモンと不眠の関係性は、まだ明らかになっていないことが多いです。男性ホルモンの低下により不眠になるのか、不眠だから男性ホルモンが低下するのか、鶏が先か卵が先か、非常に判断が難しいところです。

しかし、不眠症の人や睡眠時無呼吸症候群の人は男性ホルモン値が低く、不眠を解消するとホルモン値が回復することがわかっています。おそらく日常的な睡眠不足がテストステロンの量を減少させ、その結果、よく眠れている人よりも更年期障害が重たくなると考えるのが無難でしょう」

約600人の男子大学生を対象とした研究では、睡眠不足の人はそうでない人よりも精液量が5%減少、精子量も3割近く減少するという論文データが出ています。また、夜間勤務の男性はそうでない男性よりも、不妊症になる確率が3.6倍高まるというデータも。

また、私たちの体のホルモン量は時間帯によっても異なります。朝はホルモン値が高く、夜になるにつれ下がっていく体内時計のことを「サーカディアンリズム」と呼びますが、このホルモンの働きが、夜は眠り、朝目覚めるという生活リズムを整えてくれます。しかし、「サーカディアンリズム」も加齢により働きにくくなり、不眠を招く可能性も。

このように、さまざまな観点から不眠と男性ホルモンの相関関係が示唆されているのです。女性と同様、「ホットフラッシュ」と呼ばれる体のほてりによって、夜中に目覚めてしまうことは男性にも起こります。

「少ない事例ではありますが、前立腺がんの患者さんは一時的にテストステロンを失くす治療を行います。すると、8割くらいの患者さんがホットフラッシュによって夜中に目が覚めてしまうんですね」
 

男性ホルモン値は、治療と生活改善で回復させられる



男性の更年期障害の治療では、薬物療法、ホルモン療法、漢方療法に加え、食生活の改善やサプリメントの摂取、ストレスの緩和、運動習慣を身につけるなどの生活指導も行われます。

「女性の場合は、女性ホルモンを補充し急激な減少をゆるやかにするという考え方の上、治療が行われることが多いですよね。一方、男性の場合は、加齢によりホルモン値の減少傾向はあるものの、治療や生活習慣を整えることでホルモン値を回復させることができます

井手先生が行う生活指導は以下の4つ。男性ホルモン値の減少の予防につながるため、30代以降の男性は心がけましょう。

・運動習慣
・十分な睡眠時間の確保と良質な睡眠
・亜鉛やビタミンD、ビタミンEなどの栄養素を積極的に摂る
(サプリメント、食事の場合は牡蠣や鮭など)
・ストレスの発散


「睡眠障害がみられる場合は、運動によりある程度体を疲れさせる運動療法や日光を浴びてもらうなど、睡眠に関する生活指導も行っています。どうしても眠れない場合は、体内時計を調整するホルモンの分泌を促す薬をお出しすることもあります」
 

まだまだ認知度の低い男性の更年期障害


適切な治療と生活習慣の改善により、ある程度改善できる男性の更年期障害。しかし、女性の閉経のように目立ったきっかけがないことや、症状の認知度の低さなどにより、実際に専門医にかかる患者さんの数は少ないといいます。

「男性も女性と同じくらいの年齢で更年期障害が起こりますが、それをきっかけに受診する人数は女性よりも圧倒的に少ないというデータが出ています。特に、意欲の低下など心の症状だけが目立つ場合、我慢してしまう方が多いようなんですね」

精神科でうつ病と診断された後、問診と血液検査により更年期障害だったことが明らかになったケースも。

「うつ病の人は男性ホルモン値が低いので、これも鶏卵の問題といいますか、非常に判断が難しいところです。しかし、『希死念慮』は更年期障害の方にはあまり見られません。うつ病と更年期障害を見分ける1つの判断材料となっています」
 

気になる方は自宅でできる検査キット、もしくは泌尿器科やメンズヘルス外来へ


病院にかかることにハードルを感じる人は、自宅でできる検査キットを試してみるのもおすすめです。唾液や爪の組織などを採取し、医療機関へ郵送することで、男性ホルモン値を測ることができます。

検査キットの結果を参考に、泌尿器科やメンズヘルス外来、男性更年期外来などに相談に行くのも良いでしょう。

「『プレゼンティーズム』という言葉をご存知でしょうか?『プレゼンティーズム』とは、従業員が出社していても、何らかの不調のせいで頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態のことを指します。この『プレゼンティーズム』による日本の経済的損失は、何千億円にものぼります」

管理職など企業の重要なポストに就く50代前後。彼らの『プレゼンティーズム』の背景には、男女問わず更年期障害があるのではないかと考えられています。

「国や企業といった単位で、更年期障害に関する研究や対策はますます進んでいくはずです。ですから、男性の更年期障害の認知度も上がっていくと思いますし、それによって病院にかかるハードルも今後下がっていくのではないでしょうか」

 
***


「男性の更年期障害はどんな人でもなり得る疾患であり、少しの治療と生活改善で、多くの人がすぐ治ってしまうものなんですよ」と井手先生。

男性更年期障害を知り予防や対策をすることは、生活習慣の見直しやストレスの発散方法を考える1つのきっかけにもなります。自身や家族に症状が見られる場合は、我慢をせず医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。

 

順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科デジタルセラピューティックス講座特任教授

井手 久満先生

1991年、宮崎医科大学医学部卒業。95年、国立がんセンター研究所分子腫瘍(しゅよう)学部リサーチレジデント。99年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校ハワードヒューズ研究所研究員。2002年、杏林大学医学部泌尿器科助手。07年、帝京大学医学部泌尿器科学准教授。20年、獨協医科大学埼玉医療センター低侵襲治療センター教授。23年から現職

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