2024年01月26日 カテゴリ:眠り

居眠り運転事故直前に起きる「マイクロスリープ(瞬眠)」とは?最新研究から紐解く、居眠り運転の実態と対策

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居眠り運転事故直前に起きる「マイクロスリープ(瞬眠)」とは?最新研究から紐解く、居眠り運転の実態と対策

長年、危険視されてきた運転中の居眠り。一歩間違えれば、取り返しのつかない大きな事故を招きます。

30年もの間、居眠り運転の研究を行ってきた広島大学の塩見利明教授らの居眠り運転に関する最新研究では、トラックドライバーのドライブレコーダー映像による解析を実施。その結果、居眠り運転の事故直前には「マイクロスリープ(瞬眠)」と呼ばれる短い睡眠が頻繁に生じていることが明らかになりました。

マイクロスリープとは果たしてどのようなものなのか。また運転を避けるべきタイミングやセルフチェックの方法などを塩見先生に詳しく伺いました。
   

マイクロスリープは、誰もが経験のある眠気による「ウトウト」のこと

——居眠り運転の事故直前に起きる「マイクロスリープ」とは、どのような現象ですか?

「マイクロスリープ」とは、運転中のウトウト、15秒未満の短い睡眠のことを指します。

私たちがドライブレコーダーで観測できた52例のトラックドライバーの検討では、事故が起きるまでの60秒間に2〜3秒のマイクロスリープが1〜4回ほど生じていました。

また、マイクロスリープが生じるたびに車線逸脱が続いて起きていることも、映像から明らかになっています。

最初は、無意識に顔、頭、体を触ったり、ストレッチをしたり、あくびや貧乏ゆすりをするなど「眠気に抗う行動(抗眠気行動)」が見られます。

それだけでは眠気に耐えられなくなってくると、今度は半眼になったり、目を閉じたり、頭部がカクンと前に落ちるなど、マイクロスリープが引き起こされ、その直後に居眠り運転事故に至るという流れです。

ここまで話しておわかりいただけたかと思いますが、「マイクロスリープ」というのは簡単に言ってしまうと、皆さんがおそらく体験したことがある眠気による「ウトウト」と同じ。つまり、日常生活で起きるウトウトは生理的なものであり、誰にでも起きることです。

しかし家や教室、職場でウトウトすることと、運転中や高所作業中のウトウトは危険の度合いがまったく異なりますよね。

例えば、家のソファでウトウトしたとしても、何の支障もありません。しかし、運転中や高所作業中は一瞬のウトウトが取り返しのつかない事故につながります。

睡眠不足や長時間労働など、居眠り運転を取り巻くさまざまな課題

——「マイクロスリープ」による事故を防ぐためには、どのようなことを心がける必要がありますか?

まず、トラックドライバーのように運転が仕事である人の場合と、一般ドライバーの場合では、まったく状況が異なるでしょう。

一般ドライバーの場合は、例え長時間運転する必要があったとしても、眠くなれば休憩したり、コーヒーを飲んで仮眠をしたり、引き返したりすることができます。

しかし職業ドライバーの場合は仕事ですから、到着時間の厳守はもちろん、途中で30分の休憩を挟むにしても、「一度、横になったら起きられなくなりそう」という不安から、安心して仮眠できる人はほとんどいないのではないでしょうか。

——職業ドライバーの場合、勤務開始時に「酒気帯び有無」や「疲労の状況」など健康状態のチェックが実施されているそうですね。

職業ドライバーの皆さんはプロ意識が高いですから、勤務前にしっかりと体調を整えていらっしゃいます。ただ、そもそも労働時間が長いため、勤務前の体調チェックをクリアすれば良いかといわれると、難しいところがありますよね。

夜勤シフトの場合、家に帰っても覚醒してしまって寝付けなかったり、横になると次の出勤時間に起きられなかったらどうしよう...と不安になって、熟睡しないように心がけている人もいます。

そもそも私たちの生活は、トラックドライバーだけでなく、病院勤務の方、コンビニの店員さんなども含め、夜中に働く方々に支えられていることを忘れてはいけませんね。

——塩見先生たちとしては、トラックドライバーの居眠り運転事故に対し、どのような対策が必要だと考えていますか?

シフト勤務による睡眠サイクルの崩れなど、さまざまな課題を含みますから、正直簡単に答えを出せるものではありません。そんな中で私たちがやろうとしていることは、「事故が起きる前に車をいかに安全に止めるか」を考えることに尽きます。

一般車の場合、車線逸脱防止機能や自動ブレーキなど、事故を防止するための車の機能が増えてきていますね。その機能によって自動車事故は激減していると聞いています。

ただ、トラックの場合は重量が重いためブレーキシステムが弱く、一般車ほど機能は整っている状況とはいえません。トラックドライバーの皆さんはすでにプロ意識を持って慎重に運転されている方々ばかりですから、運転手に呼びかけるよりも、車の安全機能を改善させるほかないと私は思っています。
 

マイクロスリープの兆候が見られたら、必ず休憩を

——一般ドライバーの場合は、居眠り運転事故を起こさないためにどのようなことを意識すると良いでしょうか?

一般ドライバーの場合でも、運転中にウトウトしたらそれは「マイクロスリープ」です。どこかに車を停めて15分でもいいから仮眠をとるようにしてください。マイクロスリープが1回起きたら、必ず車を停めるように心がけてください。マイクロスリープを何回も繰り返すと居眠り運転事故を生じます

助手席に乗っている方は、運転手が顔を叩いたり頻繁にあくびをしている様子を見たらマイクロスリープの前兆かもしれませんので、手遅れになる前に休憩するよう促してください。

ただ、仮眠がうまく作用するのは遅くても24時までといっていいかもしれません。仮眠をすることで逆にぼーっとしてしまうことってありますよね。「睡眠慣性」といい、深夜から早朝は仮眠が逆効果になる場合もあります。

そのため、夜間運転のときにマイクロスリープが見られる場合は、一般ドライバーではその日の運転はあきらめて引き返してもらいたいのが正直なところです。
 

運転する前に「エプワース眠気尺度(ESS)」をチェックしよう!



——今日は運転をしても良いかどうか、何か指標になるものはありますか?


眠気を数値化して評価する方法に「エプワース眠気尺度(ESS)」というものがあります。この場合、ESSと「日本語版エプワース眠気尺度(JESS)」では8つ目の質問内容が異なるので、ドライバーの方は必ず下記のESSを用いてください。

ESSでは、以下の8つの状況における眠気を0〜3の4段階で評価します。直近の生活を思い出しながら点数をつけてもらえると良いかと思います。

①座って読書しているとき
②テレビを見ているとき
③会議や劇場などの公の場で座って何もしていないとき
④1時間休憩なしで車に乗せてもらっているとき
⑤午後に横になるのが許される状況下で、横になって休息をとっているとき
⑥座って人と話しているとき
⑦アルコールを飲まずに昼食をとったあと、静かに座っているとき
⑧車の運転中、交通渋滞で2〜3分停止しているとき

0点:決して眠くならない
1点:まれに眠くなることがある
2点:時々眠くなる
3点:眠くなることが多い

出典:M W Johns : A new method for measuring daytime sleepiness: the Epworth sleepiness scale Sleep 14: 540-545, 1991.

合計点が11点以上の場合、日中の眠気が強く、生活に支障をきたしている状態ですので、運転は避けましょう。

特に⑧の運転中の質問は一般ドライバーにとっては非常に重要です。

睡眠時無呼吸症候群の人の多くは⑧の点数が高くなります。合計点が11点を超えずとも、⑧が2〜3点の場合は、本当に今日運転する必要があるかどうか検討すると良いでしょう。

——項目をみるだけでも、日中の眠気に自覚的になれそうです。

運転の有無に限らず、この指標は役に立ちますよ。合計点が11点を超える場合は、ご自身の睡眠を見直してくださいね。

また、休日に寝過ぎてしまうのは睡眠不足の証です。土日に寝過ぎてしまうと「社会的時差ボケ(ソーシャルジェットラグ)」が生じて、生活リズムを整えるのがどんどん大変になります。

特に日曜の朝はできる限り午前中の早めの時間に起き、日曜の夜に早く眠れて月曜の朝にはいつもの時間に起きられるよう調整を心がけてください。

▼「社会的時差ボケ(ソーシャルジェットラグ)」の詳しい記事はこちら
https://www.nishikawa1566.com/column/sleep/20220620140629/

 
***

今回は居眠り運転を取り巻くさまざまな課題と対策について、教えていただきました。

マイクロスリープは一瞬ですが、必ず繰り返しやってきます。一度その兆候が見られたら、危険の合図。「ちょっとウトウトしているだけ」と軽視せず、必ず休憩をとりましょう。

また、一般ドライバーであっても帰省や休日のお出かけで長時間運転が必要な場合は、普段から日中の眠気に自覚的になっておくことも大切です。

運転には危険がつきものであることをくれぐれもお忘れなく。
 

広島大学大学院医系科学研究科

塩見利明教授

2000年大学病院に本格的な睡眠医療センター、 2008年日本初の睡眠科を開設。2004-2019年、愛知医科大学医学部教授(大学院医学研究科臨床医学系睡眠医学)。 2019年愛知医科大学名誉教授。 研究キーワード:居眠り運転、漫然運転、 睡眠時無呼吸症候群、循環器疾患、ナルコレプシー、不眠症、レム関連睡眠時無呼吸、起床困難、 不登校、マイクロスリープ。

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